インタビュー

学生からもらったフィギュアが並ぶ研究室



ー 初めてお会いした時から思っていたんですが、とにかく日本語が上手ですよね?

ありがとうございます。日本の漫画が好きなんですが、翻訳されたものだとどうしてもニュアンスが変わってしまって。日本語で読みたくて15歳から勉強を始めました。語学が得意だったので、お陰様で今は6か国語が話せます。

ー 凄いですね。改めて今日はよろしくお願いします。まずは別府に来るまでの簡単な生い立ちを教えてください。

大学を卒業して韓国でITビジネスをやっていたんですけど、それが思いのほか上手くいきまして。それで少し天狗になってしまって(笑)今の嫁にプロポーズしたんですが、波がない不安のない生活がしたいと断られてしまいまして。「あなたは教えるのが好きだから、大学の先生になってみたら?」と言われたので、大学の先生になったら結婚してくれるかと聞いたらOKだったので、ビジネスを畳んで結婚して、大学の先生になるために日本に来ました。

ー 奥さんと結婚するために勉強するなんて素敵ですね。なぜ韓国ではなく、日本だったんですか?

日本に来た理由は大きく2つあって、まず海外で勉強したいと思ったこと、もう一つは日本の文部科学省が出してくれる奨学金制度が魅力的だったことです。修士2年、博士5年の7年間返済なしでもらえるものだったので。運よく試験にも合格して、立教大学で修士を始めました。その修士課程の時にAPUに学会の発表でお邪魔した時、この大学で働きたいと思って学長に相談しました。

APUのキャンパス


いつもは講義を受ける学生で一杯になるという校舎



ー 大学教授になるってハードルは高いんですか?

大学にもよりますが、APUは日本しか理解しない人は採用しないので、修士は日本でいいけど博士は出来れば他の国に行って欲しいと言われました。奨学金の残り1200万を諦めてアメリカに行きました。そこからが苦労の始まりでしたね(笑)アメリカは学生ビザではバイトも出来ないですし、その時期長女も生まれたので、貯金もなくなり本当に無一文でしたね。それでもなんとか3年半で博士を終わらせて、無事にAPUで働けるようになりました。37歳の時ですね。

この景色を見て、ここで働こうと決心した


ー 実際にAPUで働いてみてどうですか?

様々な国籍、文化、背景を持った学生がいるので僕も教わることが多いですね。全ての人が先生になれる大学だと思います。日本で生まれ育って「平凡」な人生を生きてきた学生でも他の国の子達からしたら語学や文化など教えられる立派な先生ですから。
あとAPUってベンチャー企業みたいなんですよね。他の大学とは少し考え方が違うというか。僕はベンチャー企業を立ち上げてずっと経営に携わって来た人間なので、教授というよりもビジネスマンの目線でこの大学を大きくしたいと思っているかもしれません。
3年前に早稲田大学の教授と一緒に研究する機会がありまして、その時に「イ先生、良かったら早稲田大学に来ませんか?」とオファーを頂いたんですよ。本当に有難いお話だったんですが、それよりもAPUという大学を大きくする挑戦の方が僕にとっては魅力的でしたね。学会などでも早稲田の教授というと一目置かれるんですよ。APUもそういう一目置かれる大学にしていきたいですね。

ー イさんはどんなことを専門に教えているんでしょうか?

僕は経営学、特にマーケティングを教えています。そもそも「観光経営学」という観光地や観光産業というサービス業を経営する学問を勉強していたんですね。別府という街には欠かせないものですよね。授業でも実際に別府の街でアルバイトしている学生の話を事例として話したりします。やはり身近な生活の中から体験を通して学びを得ることがとても大事なことなので。大学の教授って立ち止まりやすい職業だと僕は思うんですよ。自分で挑戦を続けないと衰退してしまうんですよね。僕も8年目になるので、卒業生もどんどん成長や発展していくんですよね。その姿に常に刺激を受けるので、僕も日々学ばせてもらえることが嬉しいですね。

デスクトップの写真はイさんが撮影した家族の写真



ー APUは本当に色んな方がいますから、刺激は凄いでしょうね。

楽しいですよ。ベトナム人やインドネシア人やウズベキスタン人と知り合う機会は普通はあまりないですからね。オーストラリア人の生徒と時事ネタを話したり、若い時期にそういう環境にいられる学生が羨ましいですね。自分次第で世界中に友達が出来ますからね。

ー 経営をしたことがある教授が経営学を教えてるっていう環境もいいですよね。

今も民泊やウェブのビジネスをやってますしね(笑)

ー APUに限らずですが、若い世代に伝えたいことってありますか?

僕が生徒に言うのは経営学を学ぶなら実際に経営をして欲しいということです。その為には社会のニーズを理解出来る目を養わなければならないから、今はとにかく街に出て彼らがどんなことを求めているのか理解出来るように「身近な体験」から感じて欲しいということですね。それは出来ない、それは難しいと思っている時ほど挑戦する時かもしれないということは常に伝えていますね。「それいいですね!先生ありがとうございます!」と口で言うだけでは未来は開けないですから。偏差値が上がるのは良いことですが、挑戦意識もどんどん上げて欲しいと思いますね。

天満温泉



ー さて、ここからは温泉の話です。今回撮影した天満温泉はイさんのご希望でしたが、何故天満温泉を選んだのでしょう?

僕はフィギュアに始まり、集めるのが好きな人間なんです。「別府八湯温泉道」もスタンプを集めるじゃないですか。でも名人にはなってないんですね。自分でも何故かと思ったんですが、何かを集めるのは一つのことに「没頭」したいからなんですね。その没頭が温泉に関しては一か所で済んでしまうんです。それが「天満温泉」なんですよ。温泉名人のタオルが欲しい自分もいますが、馴染みのあるホームが一つ出来てしまったので、それが心地良くなってしまったんですね。そんなホーム温泉で撮影して欲しいと思い、勇気を出してモデルに応募しました(笑)

番台犬のクマちゃん


天満温泉に毎日通っている



ー 撮影に来て僕もビックリしましたが、歩いて20秒で天満温泉ですもんね。

前はマンションに住んでいて、窓を開けると別府タワーと海が見える良い場所だったんですが、いつもシャワーだったんですよ。近くに温泉もあったんですが、別府に来て3年間は一度も温泉に行きませんでした。韓国から友人が遊びに来た時に初めてその温泉に入りに行ったんですが、100円で入れてこんなに幸せになれることに驚いて。次は好きな温泉の近くに引っ越そうと決めました。今の家に引っ越して来てからは毎日温泉に入ってますね。天満温泉が休みの日はシャワーを浴びることもありますが「これはまがい物だ!」と思うほどに温泉が好きになってしまいました(笑)

ー 温泉文化に完全に染まってしまったんですね(笑)

温泉じゃない家のお風呂もそうですけど、日本は家族全員で湯船を共有するじゃないですか。目上の家族に先にお風呂に入って貰うように順番を譲ったり、残りのお湯を洗濯に使ったり、そういう文化は素晴らしいと思いますね。天満温泉でも近所の人達と挨拶をして裸の付き合いをしますが、色んな発見や気付きがありますからね。

公衆浴場には必ずあるスポンサー名入りの鏡



ー 別府は地域のコミュニティーの中心に温泉があることも多いですからね。

男性は寡黙な人も多いので挨拶だけで終わることも多いですが、いつも女風呂からはお婆ちゃん達の楽しそうな会話の声が聞こえてきますからね。天満温泉はタンクから出る98度の温泉が汲み放題なので、冬は湯たんぽに温泉を入れに来る人で行列が出来ます。そこでまたお爺ちゃんやお婆ちゃん達と会話が弾みますね。

毎日の日課になった温泉



ー 別府は優しい人が多いから、会話も楽しいですよね。何か天満温泉でのエピソードなどありますか?

天満温泉に限らずですが、公衆浴場は男湯と女湯の天井が繋がってるじゃないですか。だから姿は見えませんが、声は筒抜けで。あれはカルチャーショックでしたね。

ー ちょっとドキドキしますよね。

でも、聞こえてくるのはいつも年配の方の声なので少し残念です(笑)最初から最後までずっと喋ってるお婆ちゃんもいて、思わず会話に混ざりたくなる時もあります。

湯船が広いのでゆったりと浸かることが出来る



ー 他に何かカルチャーショックを受けたことってありますか?

マイバスケットを持って行かなきゃいけないことにビックリしました。普通はシャンプーとかリンスとか置いてあるじゃないですか?「何にも置いてない!」って心の中で叫びましたね。

ー 天満温泉以外に行く温泉や好きな温泉はありますか?

へびん湯が好きですね。学生と一緒に行くことが多いんですが、自然の中で裸の付き合いが出来るのは最高ですね。

優しい人柄が表情に出ているイさん



ー 別府の一番の魅力はなんだと思いますか?

挑戦出来る環境があって、挑戦出来る人がいて、でもまだまだやれることが沢山ある街。可能性が魅力ですかね。都会にいると日常や情報に飲み込まれてしまって、自分に何が出来るんだろうと不安になることも多いですが、別府だと情熱があれば何でも出来るし、温泉のおかげもあるかもしれませんが、シンプルな思考になってくる気がします。

ー そう考えると2.3年後にはイ先生も温泉名人に挑戦してるかもしれませんね。

そうですね。黒いタオルが欲しいという情熱はありますからね(笑)

近所の焼き鳥屋の店主マリコさん。
温泉でレバーを洗うと肉の臭みが取れて美味しくなるのだそうだ。



ー ありがとうございます。最後にこれから別府に来る人へメッセージを。

僕は学生に挑戦して欲しいということをいつも伝えるんですが、チャレンジしたくても出来ないような環境に身を置いてしまっている子達も沢山いるんですね。でも、その環境は実は変えられないと思い込んでしまっているだけの場合が往々にしてあると僕は思っていて。もし自分が本当にやりたいことがあるのなら、まずはその思い込みを取っ払って欲しいです。別府は包容力があって、可能性がある街なので挑戦しがいがあると思います。学生に限らず、色んな方に別府で新しいことに挑戦してみて欲しいですね。



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