BEPPU ONSEN ROUTE 88

No.38

菅野静

渋の湯 鉄輪温泉の中心に位置する名湯

2019年3月に別府に移住してきた菅野さん。鉄輪にあるシェアハウス「湯治ぐらし1/2/3」の運営や「湯治女子」「湯治男子」「スクランブルベップ」などの活動を通して「湯治」を世界の新しいライフスタイルにしたいと日々奮闘しています。別府鉄輪温泉に惚れ込んだ菅野さんが見た別府、そして湯治文化とは?


Writer & Photographer : 東京神父

渋の湯にて

菅野さんは「湯治(とうじ)」を世界に広める為に活動しているとお聞きしたのですが。

菅野:そうですね。シェアハウス「湯治ぐらし」の代表をしながら様々な活動をしています。

いきなり私事で恐縮なんですが、昨日猫島(深島)に行って来たんですよ。山の中の坂道を登って灯台で撮影したり久々に自然を感じられたんですよね。温泉に入ることもそうなんですけど、東京にいると感じづらくなっている感覚みたいなものがあって、温泉に浸かって、光を浴びて、風を感じて、静寂を聴いたりすると思い出すことがあるというか。
「静寂を聴く」って外の音だけじゃなくて、自分の中を見つめ直すみたいな意味もあって、そういう感覚って湯治と通じるものがあるのかなと。昔は病気を治すって文化だったとは思うんですが、今の時代の湯治って喧騒が溢れている環境から離れて、もう一回自分のライフスタイルをシンプルにしてみるってことなのかな?って勝手に思ったんですよね。

菅野:おっしゃる通り、そうなんですよ。湯治は元々は心身を治癒する、病気を治すっていう意味が大きかったんですよね。ただ、WHOの健康の定義にもあるように「健康とは肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」なんですね。つまり、体だけが丈夫でも心が病んでいたら意味がなくて、私もその3つが凄く大事だと思っています。

私が温泉にハマったのは元々は観光からのアプローチで、温泉に行きたくて行っていたんですけど、段々と温泉の質のこととか、環境のこととか、そこで編まれた文化だったり、温泉という泉の中に集まって来た人達が営んで来た文化って素晴らしいなと感じることが増えてきて。日本にはそういう場所が沢山あるんですよ。

好きだから抱きしめたいのに抱きしめられない、逆にいつも温泉が抱きしめてくれる、こんないびつな自分を




たしかに別府温泉だけが良い温泉地という訳ではないですからね。菅野さんが湯治を広めたいと思ったきっかけはなんだったんでしょうか?

菅野:少し長くなりますけど、温泉旅行を続ける中で湯治という言葉に出会ったんですね。特に東北の方で湯治って盛んなんですけど、身体を直す為に高齢の方が温泉を活用している文化だと知って。

一方で私は農作物を作って腰が痛いとか、何か持病があるとか、そういうことはなかったんですが、東京でバリバリ仕事して自分の中に溜まった何かを放電させる為に温泉に行ってたんですよね。スマホもパソコンもパンツも手放して、すっぽんぽんで入るってことの幸せ。好きだから抱きしめたいのに抱きしめられない、逆にいつも温泉が抱きしめてくれる、こんないびつな自分を。

それに気付いた時に「これって湯治じゃない?」って思ったんですよね。頑張りに行く観光じゃなくて、自分の為に自分の「肉体」と「精神」をリラックスさせて、その「社会」で編まれた文化を知ったり、お婆ちゃんの話を聞いたりすることが湯治なんじゃないかなと。

昔は温泉が薬の役割を果たしていたので、温泉場の近くにはたいてい薬師寺や薬師如来があって、仏教と結びついていたんですよ。そんな背景もあって温泉文化が日本に浸透していったんですね。だから、それに触れると心が揺さぶられるんですよね。日本人で良かったなと思う瞬間でもありますね。

温泉旅行に行くことで、溜まった電磁波みたいなものを放電して、良い気を充電して東京に帰ってまた頑張れる。心の栄養ドリンクみたいな感じだったんですよね。もっとこの湯治が日本の中で当たり前になって欲しいと思ったんですよね。東京だと隣近所に誰が住んでいるかも分からない生活の中で、やっぱり心ってどんどんすさんでいくサイクルの中にあるので、こういう時代だからこそ効き目があるんじゃないかなと思ったことがきっかけですね。


温泉を愛でる

身体だけではなく心の垢も落とすことが大事ってことですよね。本来の湯治って宿に長期間泊まって毎日温泉に入って、ゆっくりして病気を治すことだと思うんですが、そういういわゆる湯治場や湯治宿と菅野さんが言う湯治って少し意味合いが違いますよね?

菅野:そうですね。より生活に近づけたイメージですね。湯治宿って温泉のクオリティーが抜群なんですよ。でないと、治癒出来ないですからね。でも、それ以外のことには手を掛けないんですよね。あえてサービスしないんですよ。ご飯も出て来ないんです。

同じ宿に連泊することによる食の偏りを防ぐとか色んな理由があるんですが、基本は自分でどうぞ、自分の為に作ってくださいっていう(笑)自炊室で地元の野菜を調理して、温泉に入って、ゆっくりして、それを一日に何回か繰り返して、だんだん疲れや病気を手放していく。でも、それって普段の生活の中でも温泉があれば出来ることじゃないかなって思うんですよね。

「自分のからだとこころを見つめ直す時間」




都会にいると余計なものが入り込んでくるので感性が鈍りがちになります。もちろん、自分次第ではあるんですが、別府に帰ってくるとその余計なものが抜けていく感覚があるんですよね。
1日目、2日目とかはまだ東京の匂いがするんですけど、1週間もいると別府の匂いになってくるんですよね。その辺りからモードが切り替わるんですよね。メリハリとかバランスなのかもしれませんが、僕にとっては別府に帰ることが湯治になってるのかもしれないです。

菅野:東京神父より、別府神父の方がいいんじゃないですか?(笑)でも、まさしくそうで解き放つための手段なんですよね。だから私は湯治をもう一度定義しなおそうと思って、「自分のからだとこころを見つめ直す時間」っていう風に位置付けたんですよね。

そうなると温泉に入ること以外も大事になって来て、ライフスタイルそのものになってくるんですよ。温泉の近くに住むということを再価値したいなと思ったので、「湯治ぐらし」と言う屋号を付けて、それを具現化する場所としてシェアハウスを作ったんです。そして情報発信していく為のコミュニティーとして「湯治女子」と「湯治男子」を作ったんですね。

この二つは将来ユナイトさせたくて、いつかは湯治ワンワールドにしていきたいなと思ってます。湯治する為に日本に来る海外の方も増やして行きたいですね。


湯治ぐらし外観

日本には独特な湯治文化、入浴文化、温泉文化がありますからね。

菅野:私は、観光旅行じゃなくて関係旅行が大切って言ってるんですけど、関係を編みなおして、そういう場所や温泉にドロップインしたい、自分を鞣したいっていう人達が集まる日本になっていって、それぞれの違う文化や食をそこでアレンジしてもらって、日本が観光っていうよりは湯治国家みたいになったらいいなっていうのが私の夢なんですけど(笑)

夢が大きくていいですね。例えば、湯治女子の日本人と湯治男子のアメリカ人が付き合って、結婚して子供が生まれて、温泉地で湯治をライフスタイルにして生きていくっていうのも面白いですよね。そのうちananとかで「湯治とSEX」みたいな特集が組まれたり(笑)

菅野:最高ですね(笑)でも、江戸時代の文献には湯治中はエッチしちゃダメって書いてましたね(笑)

え!そうなんですか?なんでだろう。

菅野:貝原益軒さんという本草学者、儒学者が湯治の効果について書いてるんですけど、房事(ぼうじ)はダメだと。

「あ、私ってこうなんだ。こんないびつな形をしてるんだ」ってあるがままを認めたら、次また頑張れるんじゃないのかなって。




房事って性交のことですよね。でも、たしかに出発点はあくまで1人ですからね。自分の身体と心を見つめ直すことが最優先。そこに性的なものは必要ないのかもしれないですね。
少し話が逸れますが、僕、温泉(お風呂)に潜るのが好きなんですよ。目を閉じてお湯に潜ると自分の心臓の音だけが聞こえてきて、羊水の中にいる赤ちゃんの気分を疑似体験出来るんですよね。そういうのもある意味では心の癒しを求めてやってるのかもしれないですね。

菅野:温泉って湧き出てくるものじゃないですか?別府に降った雨が大地に浸透して、何百年前のマグマと何千万年前の地質から出たミネラルを受け取って、やっと50年経って温泉として地上に出てくるんですよね。そんな凄い神秘の自然循環を考えると、たかだか何年の私達の人生はちっぽけだなと思う瞬間があるんです。でも、だからこそこの一瞬が大事である事にも気付くことが出来る。

神父さんが言うように羊水の中にいる感覚になったり、あるがままの姿に戻れたり、宇宙を感じたり、すぐに自然と繋がれたり、沢山のことを教えてくれるのが温泉なんですよね。


この雨が50年後温泉になる

今降っている雨も50年後には温泉になるってことですね。浪漫がありますね。菅野さんは「湯治ぐらし」を通じて、どんなことを伝えていきたいと思ってますか?

菅野:日本は元々自然のことを「じねん」って言ってたみたいで。自然薯のじねんですよね。読み返すと「自ずから然り」。ネイチャーとかって概念は欧米から入ってきた考え方らしくて、それまでの日本人はあるがままの自然が、自然だったらしいんですよ。森はそのまま、石もそのまま、温泉もそのまま湧いてる。そこに私達がいる。この自然(じねん)って言葉が私は好きで、あるがままに戻れる場所が私にとっては温泉なんです。

自分がいびつでもブサイクでも、温泉は当たり前のようにふっと入ってきてくれるし、このままでいいんだって思わせてくれる。そうすると自分の弱みとか強みとかが認識出来るんです。自分を取り出して「あ、私ってこうなんだ。こんないびつな形をしてるんだ」ってあるがままを認めたら、次また頑張れるんじゃないのかなって。そういう「自分のからだとこころを見つめ直す時間」がとても大切なんだということを「湯治ぐらし」を通して伝えていきたいことですね。

ただ、なかなかこういう精神的なことは伝わりにくいので、もっとアウトプットを増やして、プログラムにしたり、サービスにしたりしたいなと。今はまだその発展途上って感じで模索中ですね。

なるほど。僕もこの「別府温泉ルートハチハチ」という企画では温泉ではなく、人にフォーカスを当てて撮影しています。「あるがまま」のその人を撮りたいって思って撮影してますね。

菅野:神父さんが写真というアウトプットで別府や温泉を表現する時に「メインディッシュは人で、温泉はデザート」って書いているのを見て、私もこの88人の中の1人に入りたいって思ったし、別府の温泉の良さとか、私の考えや、神父さんの考えを伝えるお手伝いが出来たらいいなと思って、「ハイ!」って手を挙げたんですよね。

なんて素晴らしい人達がいる街なんだろうって。求めていた湯治場はここだと感じました。




撮影する時に鉄輪(かんなわ)温泉にこだわりたいと仰っていました。すじ湯や渋の湯など、鉄輪の温泉で撮影したいと思ったのは、住んでいる以外にも理由があったんですよね?

菅野:鉄輪が私に与えてくれたものは本当に大きくて、趣味で湯治旅を日本全国でやってきて170か所ぐらい行ったんです。ただ湯治場と呼べるような場所はほとんどなくて、ただの観光地になっているんですよね。

そんな中、西日本だと別府の鉄輪という所に湯治場が残っているという話を聞きつけて、最後の最後170か所目にやってきたんですよ。まさに旅の終わりですよね。2018年の11月に初めて鉄輪に来たんですが、その時に「柳屋」の栄子さんに出会ったんですね。湯治場を新しくアップデートしている女性の経営者さんに出会って、凄い刺激を受けたんですね。

今まで訪れた湯治場ってもうニーズがないから、廃れて行く一方の場所が多かったんです。男社会でとても保守的で。女性が新しくやって来て改革してるのは本当に凄いなと。もちろんイタズラに改革しているわけじゃなくて、元々あった湯治文化を大事に発掘しているように見えて感銘を受けたんですね。

その日のうちに「冨士屋一也百 Hall&Gallery」の治子さんを紹介して頂いて。今はギャラリーやイベントスペースですが、元々は「冨士屋旅館」という旅館で、様々な著名人が泊まりに来ていたらしいです。その建物を取り壊す当日に「やっぱり取り壊せない!残さなきゃ鉄輪じゃない」って言ったのが安波家の治子さんだったそうなんですよね。なんて素晴らしい人達がいる街なんだろうって。求めていた湯治場はここだと感じました。


湯けむりが上がるその景色にすっごい感動して。「この街、生きてる!」って。




たしかに菅野さんにとっては温泉場ではなく、湯治場であることに意味がありますからね。そのお二人との出会いが鉄輪に移住してきた1番のきっかけだったわけですね。

菅野:治子さんに「この街を一望出来る湯けむり展望台っていう場所に行きたいんです」と言ったら、「そこじゃなくて、ここから登ったら綺麗な景色が見れるわよ」と言われて、冨士屋ギャラリー近くの急な坂を登った場所まで行ったんですよ。時間的にちょうどマジックアワーで、夕日が沈み始めて、坂の下に見える鉄輪の街にオレンジの灯がぽっ、ぽっ、と点き始めた時だったんですよ。湯けむりが上がるその景色にすっごい感動して。「この街、生きてる!」って。

これだけの湯けむりって人間の手を介さないと上がらないし、そこに息付いて生きている人達がいて、文化を継承している。それを新しくアップデートしようとしている人達が今目の前のこの街にいるんだって思ったら、ゾワってしちゃって(笑)「私ここに住みたい!」ってなっちゃったんですよ。移住のいの字も考えてなかったので、完全に一目惚れですよね。

その時期、「いつやるの?今でしょ?」が流行ってたこともあって、11月に旅をして、2月には栄子さんと治子さんにも協力して頂きながら家探しをして、3月には引っ越してましたね(笑)


マジックアワーの鉄輪温泉

僕もそうでしたけど、地元の人達はこの環境がいかに特殊で、代え難いものなのかに気付いてないんですよね。温泉が日常だから。今や100か国以上の人が暮らしているこの別府という街が、どれだけカオスで面白い環境なのかにピンと来てない気がするんですよね。
情報発信している人や移住してきた人達が、この温度差をぬる湯と熱湯をブレンドするみたいにかき混ぜることが出来たら、別府は本当に世界一の街になれるポテンシャルを持っていると僕は思うんですけどね。

菅野:私もそう思います。ただ地元の人達にリスペクトはしなきゃいけないと思ってます。私達みたいな余所者がやってきて、面白いねって取り上げて、ガチャガチャしちゃいけないって思ってます。凄く大切にすくわなきゃいけないって思います。すくうっていうのはヘルプやセイブじゃなくて、スクープするって意味ですね。手のひらですくう、そんな感覚です。

「鉄輪の血管をバイパス手術してるみたい!」




僕は今は東京在住ですけど、別府出身の別府人として思うのは、とにかく別府を愛してくれる人が別府の人は好きだってこと。菅野さんみたいに鉄輪が大好きだって気持ちは自ずとリスペクトになると思いますよ。

菅野:鉄輪が好きすぎて、この想いをどうしたらいいのっていつも思います(笑)鉄輪で起こることや当たり前にあるようなことに対して、私が「これって最高ですよねー」って言うと「何が?」ってなることも多いんですよね。

マンホールを開けて組合長さんが掃除している下の配管とかを愛でたり、ずっと写真撮ったりしてると「何やってるの?菅野ちゃん」とか言われるんですよ。「鉄輪の血管をバイパス手術してるみたい!」なんて言うとみんな大笑い(笑)そこに笑いが生まれて、その空間がとても心地良いんですよね。


渋の湯の更衣室にて

当たり前のことが本当は1番の奇跡だって気付くことは人生においても大事なことだと思います。

菅野:守ってくれて、受け継いでくれた人がいるから私達が享受できるんですよね。温泉も掃除や管理を当たり前にしてくれる人がいるから温泉に入れるんだっていう。ありがたいとしか思えない。温泉に入る時も、ありがとう...って思いながら入ってます。

日々感謝ですよね。それ以上でも以下でもない。

菅野:そうですね。自分であること、健康であること、当たり前であることに感謝する。それが「湯治」なんですよね。


あちこちから湯けむりが上がる鉄輪

今回撮影する渋の湯に思い出はありますか?

菅野:渋の湯に入ってみると、お湯がすんごく「包容力」があると感じます。たっぷり感、包まれる感がハンパないんです。入るともう、どうとでもなれ〜と身を委ねる感じ。

そしてもうひとつ、私ができるだけ毎朝、毎晩入っているヘビロテ温泉が「鉄輪すじ湯温泉」です。ここは組合に入ると年間2000円で利用できる年パスの木札がもらえるんですよ。いま流行りのサブスクの温泉とも言える。

タイルが薄いグリーンというか水色というか、そしてクリーム色の壁面と、源泉100%の温泉がたゆたゆこんこんとたっぷり満ち満ちていて、そこに静かに身を沈めると、ほわほわほわ〜〜ほへ〜〜〜っとなります。朝は熱めで交感神経を刺激してしゃきっと、夕方には多くの方々が入った後の柔らかい温泉でゆうるりと疲れを手離していけるので、私はここを「精神と時の部屋」と呼んでます(笑)考え事や悩みを持ち込んでは、この温泉がふわっと解決させてくれるから。やっぱり、温泉には抱きしめられてばかりですよね。


渋の湯裏にあった滝湯

鉄輪は別府でも湯けむりが多い街だし、特別な雰囲気がありますよね。温泉に抱きしめられる。そんな気持ちになるのも頷けます。

菅野:渋の湯は「一遍上人」が作った礎で鉄輪の始まりの場所ですから、そんな場所にこんな余所者が入らせて頂けるのは本当に有難いことですよね。

渋の湯は裏手も凄くて、滝湯跡があるんですよ。真ん中にお地蔵さんが彫られていて、両端に月と太陽が彫られてます。温泉の力を借りて身体や心を治そうという祈りが込められていたんじゃないかと想像すると鳥肌が立つんですよね。

昔の資料を読むと裏が滝湯で今の渋の湯は浴槽がひとつあって、その隣には蒸し湯があったらしいです。(現在渋の湯の近くにある「鉄輪むし湯」よりも近い場所に当時は蒸し湯があった)この場所に初めて来た時に「この街、湯治の聖地で間違いない!」って思いました(笑)温泉に集う沢山の想いや祈り、文化があったんだなーって。


月と太陽

僕も何度か入ってる温泉ですが、日の光が入ると湯気がよく見えて、なんとも言えない気持ちになりますよね。今回は「湯治ぐらし」で暮らす渡邉さんにも撮影に協力してもらうんですが、シェアハウスで暮らすようになったきっかけを教えてください。

渡邉:菅野さんと同じ大阪出身で、本社が大阪にある会社の別府支社に勤めています。転勤の声がかかったとき、別府にはまだ来たことがなかったのですが、2019年の9月、ちょうどラグビーのワールドカップがやってる時期に出張で一度別府に来たんです。竹瓦温泉に入ったり、観光して別府をまわっていい所だなと思って、すぐ別府に来ることになりました。

別府に来てから鉄輪温泉を知ったんですけど、湯けむりが立ち上る雰囲気だったり、人の暖かさだったり、「めっちゃいいやん!」って思って。鉄輪に住みたいなーって思ってた時に菅野さんに出会っちゃったんですよね。

渡邉さんはつまり湯治女子ってことですよね。

渡邉:そうですね。完全に(笑)毎年鉄輪で行われている「蒸しツーリズム」って言うイベントで菅野さんに出逢いました。

「湯治場を湯磁場に」




想いや人や場のエネルギーって色んなものを引き寄せますからね。

菅野:「湯治場を湯磁場に」ってよく言ってるんですけど、本当に磁石の場所だなって。勝手にS極とN極がくっ付くんですよね。絶対なんか出てると思います(笑)

地下に温泉が流れてるわけですから、街からもなんか出てますよね(笑)

菅野:あと思うのが、別府って海と山があって、目線が上がったり下がったりする街じゃないですか。でも、北はこっちで(海でも山でもない方角の北を指しながら)南はこっちなんですよね。大阪は京都に近いので上がるっていうと北なんですね。別府にいると軸がズレるというか、他の場所と物の考え方のベクトルがちょっと違うなって感じるんですよね。

それ面白いですね。誰か研究して欲しいくらいです。別府って時空が歪んでますからね(笑)50年前の雨が今温泉になってるっていうことも不思議ですよね。

菅野:そうそう。ほんとそんな感じです。温泉は50年の巡りがあるから、50歳の人が別府に来たらいいなと思うんですよね。そういうツアーをやりたいくらい。人生を考え直すようなタイミングじゃないですか、50歳って。

自分が生まれた時に降った雨や、自分が泣いた時の涙が染み込んだような温泉に抱きしめてもらえるって、とてもロマンチックだと思うんですよね。

「みんな、このライフスタイル最高だよ!」って叫びたい感じです(笑)




僕も別府ってロマンチックな街だと思います。夜の鉄輪温泉の湯けむりとか最高ですよね。あんまり共感してもらえないですけど(笑)

菅野:知らないだけですよね。今日も雨でラッキーですよね。この雨が50年後温泉になるんだから。鉄輪に旅行に来た人はみんな雨だと「がっかりです」って言うんですけど、そんな方には伝えてます「雨だからラッキーなんですよ」って。

湯けむりが立つのは雨の日や寒い日なので「今貴方は極上の湯けむりを見てますよ」って言うんですね。今降っているこの雨が50年後に温泉になるんですよって。そうするとパッと表情が明るくなって、「じゃあ、散歩でもしてみようかな」って言って下さるんですよね。

街のみんなが温泉に入って心がぱかって開いているから、会話も凄く楽しいし、あるがままだから、みんな剥き出しで丁寧に生きられるんですよね。そんな場所で湯治するって最高ですよね「みんな、このライフスタイル最高だよ!」って叫びたい感じです(笑)

全ては考え方次第ですよね。それを教えてくれますよね、別府って。今日はありがとうございます。最後にこれから別府に来る人へメッセージをお願いします。

渡邉:別府に来たら必ず鉄輪温泉に来て欲しいです。大阪人と別府人はフレンドリーな所とか似てるので、大阪の人に別府は特にオススメです!

菅野:是非、シェアハウス「湯治ぐらし」に住んで湯治を一緒に盛り上げて欲しいですね。女子も男子も絶賛受付中です!

別府は温泉があるがままに戻してくれるので、暮らしを編み直して、そこから新しい挑戦が出来る街だと思います。温泉をライフスタイルに取り入れて、自分のからだとこころを見つめ直して欲しいなと思います。特に鉄輪温泉は最高の湯治場ですので、皆様お待ちしております。鉄輪にはかなわんなー(笑)


温泉を抱きしめたいのに、抱きしめられてばかりだ

MODEL PROFILE

名前:菅野静(Shizuka Kanno)
年齢:42歳
出身:大阪
職業:「湯治女子」コミュニティ主宰
湯治ぐらし」オーナー経営者


CREDIT

タイトル:温泉を抱きしめたいのに、抱きしめられてばかりだ。
撮影日:2020年10月22日
写真撮影&インタビュー:東京神父

撮影協力:渋の湯、別府市、別府市温泉課、渡邉花(あや)さん、坂井美保さん、橋本栄子さん、御宿温泉閣、鉄輪シェアハウス「湯治ぐらし」、柳屋冨士屋一也百 Hall&Gallery

※温泉や個人の情報は全て撮影当時のものです。

ONSEN INFO

渋の湯

竹製温泉冷却装置「湯雨竹(ゆめたけ)」での温度調節により、源泉かけ流しが楽しめる温泉。「渋の湯」という名前は鉄輪の字名「渋湯」から引き湯をしていたこと、昔はタオルが茶色に染まるほど渋い色の泉質であったことに由来すると言われている。すぐ近くには鉄輪温泉開湯の祖である鎌倉時代の僧「一遍湯かけ上人」の像がある。明治後期〜大正期には「渋の湯」の奥に滝湯と蒸し湯があり、湯治客に人気を呼んでいた。



住所:大分県別府市風呂本16


営業時間:6:30〜20:30(年中無休)


入浴料金:100円(必ずコインロッカーを利用)


泉質:塩化物泉


地図:湯巡りマップ


公式HP:別府八湯温泉道サイト



BEPPU ONSEN ROUTE 88