BEPPU ONSEN ROUTE 88

No.39

円城寺健悠

前田温泉 別府大学からほど近い温泉

現在、別府大学3年生の円城寺君はどっぷり別府にハマっている学生。温泉愛好会の代表を務め、別府の歴史をアーカイブする展示を開催し、シェアハウス「湯治男子」で暮らしています。20歳にしてすでに自身のスタイルを持つ彼に別府の魅力を聞きました。


Writer & Photographer : 東京神父

別府大学にて

まずは簡単な生い立ちと別府に来ることになった経緯を教えてください。

円城寺:佐賀県出身で高校まではずっと佐賀で暮らしていました。小学3年から高校3年までずっと野球をしていました。僕の祖父が戦争を体験していて、よく話を聞かせてくれてたんですけど、過去の記憶を大事にして欲しいっていつも言っていたんですね。その当時はよく分からなかったんですけど、その影響もあって次第に歴史に興味を持つようになりました。

高校生になった時に大学でアーカイブズを学んでアーキビストになりたいという夢が出来て、調べてみるとアーキビスト養成課程が別府大学にあることがわかったんですよ。それで受験して、別府に来ることになりました。元々、別府大学は発掘や考古学で史学科が有名なんですよ。

僕も別府大学のOBになるんですが(国文科を中退)史学科が有名っていうのはこの年になって初めて知ったんですよね。具体的にどういう勉強をしてるんでしょうか?

円城寺:古文書とかを解読して目録を作ったり、考察したり。僕の場合はアーカイブズなので、資料保存とか残していくためにどうすべきか、みたいなことを学んでいます。

自分の身近な所に別府の歴史が転がっていたんですよ




なるほど。円城寺君は今別府の歴史をアーカイブズするために様々な活動をしていると思うんですが、別府でそれをやりたいと思ったきっかけは?

円城寺:入学した時に大学の温泉愛好会に入ったんですけど、公衆浴場によく行ってたんですよね。大学生にしては珍しいと思うんですけど、地域の人との接点が多かったんですよ。

別府の方は喋るのが好きな方が多くて、別府の昔話とかをおじいちゃんが話してくれるんですよ。それを聞いていると別府の歴史って面白いなって思うようになったんですね。「うちに写真があるから見に来ないか」なんて言ってくださる方もいて。自分の身近な所に別府の歴史が転がっていたんですよ。それに触れているうちに純粋にやりたいなって思うようになりました。


大学の教室にて

別府の人と触れあうことによって、欲求が湧いてきたんですね。その始まりの舞台が温泉っていうのも別府ならではですよね。

円城寺:そうですね。誰かにアポを取ったわけではなく、ただただ普通に温泉に行ったら、そういう話になって盛り上がるって感じでしたね。

温泉愛好会に入ったってことは元々温泉が好きだったんですか?

円城寺:佐賀県は嬉野とか武雄とか温泉はあるんですが、僕の住んでいた街にはなかったので、そんなに身近なものではなかったです。ただ別府に来るなら温泉だと思っていたので、何かサークルに入るなら温泉愛好会がいいなとは思っていました。


前田温泉近くのたばこ屋にて

温泉愛好会はどんな活動をしているんですか?

円城寺:週に1回集まって、みんなで温泉に行く感じです。そこで喋ったりとか、純粋に温泉を楽しむって感じですね。別府に来て2年ですが、今は僕が代表をやってます。

それにしても2年でこれだけ地域の人と関わったり、活動している大学生も珍しいですよね。でも、そういうある意味変態的な人は別府に合うと思うんです。ルートハチハチも僕が変態だと思う人を撮影してるんですが、円城寺君からも変態臭がプンプンしますよね。

円城寺:ありがたいです(笑)個性は大事ですよね。

いつも着ている服といい、どういう育ち方をしたらそんな風になるんでしょうか(笑)

円城寺:よく言われます。両親にも言われるんですよ「お前はなんでそんな風に育ったんだ」って。僕の両親は普通に会社勤めですし、高校生の弟も割と内気な性格ですし。あまり社交的じゃない家族だと自分でも思うんですけど、理由は僕が一番知りたいですよね(笑)

別府は変態を引き寄せるから、温泉の神様に「円城寺、お前はこの街で一つ事を為せ」って言われてるのかもしれないですよ。

円城寺:そもそもアーカイブズをやっていなければ別府には来てないですし、別府に来るまではこの街でアーキビストになろうとは思っていなかったですから、運命を感じます。


別府大学キャンパスにて

別府の歴史と温泉で出逢う変態達に魅了されていったわけですね。円城寺君から見た別府の魅力ってなんだと思いますか?

円城寺:人はもちろんなんですけど、僕はやっぱり歴史にいっちゃいますね。夜の街と住宅地が隣接していたり、なんでこの場所にこれがあるんだ?なんでこれとこれが並んでるんだ?みたいな。遊び心がある街だと思いますし、そこに歴史が絡んでるのが面白いんですよね。

地元の佐賀は基本城下町なんですけど、良くも悪くも簡素な街なので、比較するとさらに面白いですね。今だにレトロな建物や遊郭の名残が残っているのがいいなーと思います。

それを紐解いていくのが楽しさでもあるんですよね




確かに別府は面白いものが隣接してますよね。成人映画と幼稚園、公衆浴場と大人のお風呂、西法寺と波止場神社の神仏習合の通りとか、表面だけ見れば面白い、カオスって言葉になるんですが、歴史を紐解いていくとそこに理由や背景があったりするんでしょうね。

円城寺:そうですね。まさにそれを紐解いていくのが楽しさでもあるんですよね。

僕も今「別府箪笥の肥やし写真計画」という企画を動かしていて、地元の方達の生の写真をウェブでアーカイブするってことをやっています。円城寺君がやってるアーカイブズには凄く共感する部分があります。100年前の写真も撮ってる時はその時の「今」を撮っているわけで、時が経過することによって同じ写真が全く違う意味を持ったりするから面白いですよね。

円城寺:そうですね。古い写真はそれだけで価値があったり、感動がありますよね。


いつもの帽子と鞄

アーカイブズする上で大切にしてることや、今後の展望とかあれば聞かせてください。

円城寺:僕が大事にしているのは自分の足で集めるっていうことです。そういう情報があったり、人と繋がったりした時には直接見に行くようにしてます。地域の人と一緒にやることにも大きな意味があると思っています。

最初は趣味で集めていた写真だったんですが、最近では企業さんからアーカイブズをやってほしいと頼まれることもあって、人が求めているアーカイブズをやっていければ、それがそのまま仕事になるんじゃないかなとは思っています。

地域の人と一緒にやっていくことは大事ですよね。将来はフリーランスでアーキビストをやっていくってことですかね。

円城寺:今はまだアマチュアのアーキビストなので、この後大学院まで進んで、アカデミックに専門知識を身に付けたアーキビストになっていきたいですね。

そういう人が別府でアーカイブズをやってくれたら、喜ぶ人は沢山いるんじゃないですかね。

円城寺:別府に残る気満々です!(笑)


最高に気持ちいいお湯

温泉の話も聞かせてください。今は「湯治男子」というシェアハウスに住んでると聞きました。

円城寺:去年の6月に鉄輪で写真展をやった時に菅野さんと知り合ったんですけど、すでに「湯治女子」というシェアハウスをやられていて。

その話を聞いた時に僕がふと「男子ってないんですかね?男があったら住みたいですね」って言ったら、菅野さんがその言葉を本気にして「いい物件見つけたよ」ってすぐに作っちゃったんですよね(笑)「菅野さんなら付いていきます」って言って、それまでは寮に住んでいたんですけど、すぐに「湯治男子」に引っ越しました。

スピード感がえげつない人っていますよね。温泉の歴史を知るのもアーキビストとしては必要なことですよね。

円城寺:温泉や湯治にも興味がありましたし、自分なりの歴史だったり、アーカイブ的な視点から何か発掘出来たらいいなと思ったので、それを住みながら体験出来るっていいなと思いました。


大学終わりに入りに来ることも

普段よく行く温泉はありますか?

円城寺:自分が番台や掃除をしているので、前田温泉が多いんですけど、今は鉄輪に住んでるので、熱の湯はよく行きます。フリー(無料)というのも大きくて。僕は割と熱めの温泉が好きで。長くは浸からないんですけど、気持ちよくゆったりというよりも、シャキッとする感じが好きですね。刺激を欲しているのかもしれません。


日々温泉に感謝して

やっぱりド変態ですね(笑)

円城寺:ゆったりしなよって良く言われるんですけど、熱い温泉にガッと入って気合いを入れたいって感じですね。


たまたま来ていたドストン君と

前田温泉の番台や掃除はどういう経緯でやることになったんでしょうか?

円城寺:2020年9月末に休館する予定だったそうなんですが、現在は別府八湯温泉道名人会さんが管理・運営を引き継いでいる感じです。

名人会さんとはイベントなどで交流させてもらってます。その時に理事長の佐藤さんと知り合いました。温泉愛好会の代表をやっているので、直接佐藤さんから僕に連絡が来て、前田温泉の管理を一部やらせていただいている感じですね。

当たり前の話ですが、そうやって管理してくれる人がいなければなくなってしまうものですよね。

円城寺:そうですね。ほんとに閉鎖っていうところだったので。

今日、撮影の時に前田温泉にいた常連のおじちゃんとかも温泉がなくなってしまったら困るわけですよね。

円城寺:番台に座っているとよく言われます「あなた達のおかげで生活が守られる」って。今を守るってことが、やっぱり文化を残していくことにも繋がるので、とても大事なことだと思います。

温泉がこれだけ暮らしに密着しているからこそですよね。

円城寺:そうですね。アーキビストとしても残していかなきゃいけないものだと感じてます。

アーキビストとして活動する中で、何か別府でのエピソードとかあったりしますか?

円城寺:別府はウェルカムな方が多いので、ご自宅に伺って古い写真を見せてもらったり、話を聞いたり、取材みたいなことをよくやらせてもうんですけど、家に上がると3、4時間拘束されちゃうんですよね。

僕もある程度聞くことは考えて行くんですけど「今日は取材ありがとうございます。お忙しいところ...」って言うと挨拶の途中で「昔はなー」と始まってずっと喋ってるんですよね。観光都市ならではなのか分かりませんけど、人懐っこさというか、受け入れてくれるというか、それが自然っていうのが凄いなと思います。別府はいい意味で変わっている人が多いですよね。

一日が出逢いで終わっちゃうんですよね




話を聞いて欲しい人が多いのもそうですが、やっぱり若い世代に伝えたいって思ってる方も多いんじゃないですかね?僕も温泉で知らないおじいちゃんに熱く語ってると、その倍の熱量で話してきますし(笑)止まらないですよね。途中で「もうのぼせちゃう」って思っちゃいます。

円城寺:僕も同じような経験してます(笑)温泉だとさすがに厳しいですけど、引き込まれちゃうのであっという間に時間が経ちますよね。

温泉でも道端でも家でもすぐに井戸端会議が始まるのがいいですよね。

円城寺:一日が出逢いで終わっちゃうんですよね。

名言ですね。でも、円城寺君自身がオープンでいるからですよね。だから引き寄せるんだと思います。

円城寺:確かにそうかもしれないですね。休みの日に街に出る時も「誰かいるんじゃないかな」って理由で出ることも多いですね(笑)別府に来て良かったなと思うことの一つは、この人との繋がりや出逢いの多さですね。よく第二の故郷って言いますけど、地元に帰った瞬間に別府に早く帰りたいなーと思うので、完全に別府が故郷になってますね。

僕も別府出身だから、そう言ってもらえると嬉しいですね。今日はありがとうございます。最後にこれから別府に来る人へメッセージをお願いします。

円城寺:別府に旅行に来る方はいわゆる観光メインだと思うんですけど、せっかくだから人と関わって欲しいです。菅野さんも言われてることなんですけど「観光から関係へ」ってまさにそうだなと思うんですよね。

街を歩いて、地元の人と関わって、会話から生まれる縁や情報、歴史や文化、自分の内面を発掘する。温泉を楽しむのは勿論ですが、人との繋がりを楽しんで欲しいなと思います。非日常と日常が混ざる面白さを知れるのが別府という街だと思います。


お決まりのポーズで

MODEL PROFILE

名前:円城寺健悠(Kenyu Enjoji)
年齢:20歳
出身:佐賀
職業:学生(別府大学)


CREDIT

タイトル:BEPPU ARCHIVIST ENJOJI
撮影日:2020年10月19日
写真撮影&インタビュー:東京神父

撮影協力:前田温泉、別府市、別府市温泉課、別府大学、石川万実さん、佐藤正敏さん、Doston Jobsさん、別府八湯温泉道名人会別府箪笥の肥やし写真計画

※温泉や個人の情報は全て撮影当時のものです。

ONSEN INFO

前田温泉

JR別府大学駅と同大学の間にある公衆浴場。人手不足などから2020年9月末に休館する予定だったが、現在は別府八湯温泉道名人会が管理・運営を引き継ぐことで運営されている。別府大学の学生有志が番台や清掃をしている。泉源は鉄輪の十万地獄で、平田温泉などと同じであるとされている。



住所:大分県別府市上人本町1−21


営業時間:8:00〜20:00
(定休日:毎月1日・15日)


入浴料金:100円(別府市外の方は200円)


泉質:塩化物泉


地図:湯巡りマップ


公式HP:別府八湯温泉道サイト



BEPPU ONSEN ROUTE 88