BEPPU ONSEN ROUTE 88

No.54

岩坂忠恭

祇園温泉 朝見川沿いのこじんまりとした名湯

鬼太郎のタトゥーが入っていたり、トゥクトゥクやハーレーに乗っていたり、とにかく個性的な岩坂さん。別府は素晴らしい、人がいいとみんながみんなそう言うけれど、果たして本当にそうなのか?岩坂さんが感じる別府の光と影とは?別府のかっこいい大人のロングインタビューです。


Writer & Photographer : 東京神父

ハーレー乗りでもある

今回は岩坂さんの提案で祇園温泉で撮影しますけど、どうして祇園温泉を選んだんでしょうか?

岩坂:コロナが始まった2020年の6月ぐらいに祇園温泉の近所の家を購入したんですね。自分は仕事の時間で間に合わなかったりするので、たまに入るくらいなんですが、家族はほぼ毎日通っている温泉だったので。


僕も実家が田の湯なんで朝見神社や茶房たかさきに行ったり温泉に入りに行ったり、よく来る場所ではあります。朝見はすごく気がいいと思うんですが、実際に住んでみてどうですか?

岩坂:そうですね、僕も一緒の感想です。気も人も湯も全部がいいですね。


他によく行く温泉とか好きな温泉とかあったりしますか。

岩坂:別府の地元民あるあるだと思うんですが、温泉のありがたみを実は1番わかってないのが我々住んでる人間なんですよね。だから、なにも珍しがらないし、入りに行かないです。祇園さんに行くのはただ近いから。そんなもんですよ。


そうですね。僕も実家から1番近いのが田の湯温泉なんですけど。小さい頃は田の湯か自分の家の温泉にしか入ってなかったですね。

岩坂:地元の人間が1番別府温泉というものの良さをわかってないという(笑)


それは僕も別府の課題の1つでもあると思います。100円、200円で毎日温泉に入れることがどれだけ幸せなことかと。まぁ日常になってしまうとなかなかありがたみを感じるのは難しいことだとは思うんですが。

岩坂:地元の方はしょうがないんですよね、日常だから。当たり前になりすぎちゃってるってのは悪いとこっすよね。男女関係もそうじゃないですか。なくしてから気付くんですよ、その良さや大切さにね。


流川通りにある岩坂さんのお店

本当にそうですね。さて前置きが長くなりましたが、まずは岩坂さんの簡単な生い立ちから教えてください。

岩坂:両親は大阪から別府に来たんですが、今から50年ぐらい前に日用品を取り扱う日曜商会というお店を引き継いで、夫婦2人でちっちゃな酒屋さんをその場所で(現在は岩坂さんが「とことわ」という居酒屋を営んでいる)始めました。

両親が頑張って、原町のところに新築を買ったんですね。昔は海門寺公園の近くに住んでたんですが、姉、僕、妹がおって、この場所に生活基盤が移りました。親が毎日目の前で働く姿を見ていたので、いい意味ではお金のリアルを子供の時から勉強させてもらってましたね。悪い意味ではお金が目の前にありすぎて、不自由を知らなかったので、タフさとかハングリー精神はちょっとなかったかもですね。

80年代、90年代と日本が経済的に1番豊かになった時に学生をやってた世代でしたね。その後、失われた20年がやってくるわけですけど、いわゆるロスジェネ世代。大学目指したけど一浪してもダメで、半ば逃げるように別府を出て福岡の専門学校に通い始めます。


別府を出て色んなカルチャーに触れたって感じですかね?

岩坂:別府にいる時もお洒落が好きだったりはしましたけど、都会を満喫した4年間ちゅうのが僕の青春ではありましたね。ヤマハ・SRっていうバイクを買って、それをカスタムして、夜な夜なバイク友達と遊んで、毎日のように行きつけのお洋服屋さんに行って、じゃあそれくださいってカード10回払いで大概のものを買ってました。親が一生懸命仕送りしてくれてたから叶ってたことで、今思うと自分がどんどん馬鹿になってった時間だった気がします。

就職試験でどうにか大阪の建築資材メーカー大手に滑り込んだんですが、全然通用しなかったですね。それでその時期に僕、ストーカーにあったんですよ。


それはまた急に。聞いてもいい話ですか?

岩坂:大丈夫ですよ。就職も決まった。どうにか形になった。そんな時に最後のアルバイト先で出逢った子で。当時僕が23、4でその子が20歳。全然タイプでもなかったですけど、ある時相談があると言われて。「私ね、 前付き合ってた男に待ち伏せされてて、バイト終わりに家の近くにおられて、茂みとか公園のトイレの裏側に連れていかれるんよ」と。要は本意ではないのに、そういうことをさせられると。


それはその女の子がストーカーに遭ってたって話ですよね。

岩坂:そうです、そうです。そんなんしたくないって断ると、殺すぞって暴力振るわれて、強制的にそういうことをさせられるんやと。結構ひどい暴力の跡とかがあったりして。そんな人を見たのも初めてだったんで、どうもしてあげれんわ、と思ってはいたんですが。


今思えば映画みたいな話でしたね。




僕は岩坂さんの性格知ってるので、ちょっと結末が想像出来ちゃいました。

岩坂:多分、当たってると思います(笑)
「気を付けてな」しか言いきらんかったんですよ。それで次の日、あんまり遅刻せんその子が遅刻してきて。無我夢中でそのアルバイト先の建物から飛び出て、わーって走ってたら、ただ電車1本乗り遅れて遅刻しただけやったんですよ。それでバイト先と駅の途中くらいでパッと目が合った瞬間、お互いに優しい笑顔になったというか、以心伝心して。心の中で「無事ならいいよ」って言ったのが向こうにも表情で伝わった気がして。そこから急に仲良くなって。


なんだかとても素敵な話です。今のところ。。

岩坂:それから少しして、ほんと申し訳ないけど、やっぱおると。男が待ち伏せしとんけん、家帰れんと。一晩でいいけん、助けてくれんやろか?から始まって、今日も今日もになって、住み着くようになってしまって。 でも僕からしてみたら、もうこの子を助けないかんと。こんな困ってる人、暴力されてる人、やっぱり見過ごす訳にはいかないって。最初はそんな気もなかったはずなのに、若いから男女の関係に、なりますよね。


なりますね。

岩坂:スタートは人助け。こんなにひどい目に遭ってる人を助けなきゃいけないけど、たった1回、2回そういう関係になったばっかりに、やっぱ助けるストーリーじゃなくなってくるんですね。

当時彼女もいましたから、当然そんなこと言えないですし、浮気してる兄ちゃんになり下がっていくんですよ。スタートはほんとにピュアな気持ちで人助けしたいって思ったのに、どんどんバランスが崩れていくんです。


岩坂さん、真面目なんですよね。

岩坂:そうかも知れない。あの当時ストーカーって言葉もなかったですが、どんどん事態が悪化していくんですよ。当時、東京から数年遅れでチーマーブームが福岡でもあって、その一味の男だって言うんですよ。身長高くてロン毛で、白のランクル乗っててバリバリ武闘派な男やと。僕全くそんな人じゃないので、ただのファッション好きのキッズなだけなんですよ。僕からしたらそんな武闘派無理なんですよ。


お店の近所で撮影

なんというか、これは褒め言葉ですが、見た目は岩坂さんもだいぶ武闘派ですけど(笑)

岩坂:ありがとう!喜んでいいのかわからんけど(笑)
それで僕がかくまうみたいになって、その男がその子を探し始めるんですよ。包囲網がだんだん狭まって、僕の居場所まで突き止められて。ある日とうとうその男にその子が拉致られてしまって。

今から高速乗って東京を目指すと。逃げたら許さんぞと。助けに来てと言うわけですよ。それで指定した場所にバイクで行ったら、今でも忘れないですが、車のライトの向こうに姿が見えて。赤い鮮血と一緒に。その子が目の前で傷つけられてるわけですよ。もう僕も怖いし、命からがらなんとか逃げ出して家で手当して。


ドラマとかではよくありそうなシチュエーションですが、実際にその経験は思ってる以上に怖いですよね。

岩坂:そうですね。そこから完全に自分の家に居つくようになるんですね。それでチーマーの件が落ち着いた頃に、今度はヤクザのおっさんから追われてるって話になって。


え?というか、それってもうその子に原因がありますよね?

岩坂:はい。ストーカーだけじゃなくて、ヤクザにって、もうこれはダメだ。自分では対処できないって時に、そのストーカーとヤクザが警察に捕まったんですよ。詳しくはインタビュー外で話しますけど(笑)後々わかることなんですが、その子も自殺未遂だったり、色々と抱えてる子で。これって福岡から大阪に行くまでのほんの三ヶ月くらいの話なんですけど、人が刺された、人が死ぬ、警察が来た、みたいな。今思えば映画みたいな話でしたね。


トゥクトゥクには温泉セット

すごい話しですね。

岩坂:それで、最終的にその子が僕のストーカーになってしまって、大阪まで追われて。この辺もかなりハードなんでインタビュー外で話します(笑)


(インタビュー外の話を聞いて)なんというか、ほんとに映画の原作みたいなお話ですね。ほとんど書けないですが(笑)

岩坂:実は僕も1度だけ、大阪で自殺未遂まがいなことをした経験があって。今思えば、本当に死ぬつもりなんてなくて。ポーズしただけじゃないけど、バイク事故を装って死のうとした夜があって。そういう自分の弱さみたいな部分にトラウマがあったりするんですよ。


勝手な印象ですけど、岩坂さん本当にお優しいですよね。

岩坂:優しいですね。自分でもそれわかってますよね。そこに甘えているというか。


僕もすごく似てるからわかるんですけど、悪人になりきれないっていうか、その優しさって実は本当の優しさじゃなくて、弱さがそうさせるんですよね。

岩坂:そう、そうなんですよ。弱さと表裏一体なんですよ、僕らの優しさは。自分をよく見せたいだけなのかもしれないですよね。いい人だと思われたいから、みたいな。


そうそう、ほんとにそうですね。だからもうめちゃめちゃ気持ち分かります。

岩坂:今日神父さんから午前中聞かせてもらった話にも共感するんですが、僕がこの子を守らなきゃっちゅうのが異常に強いと思う。


手を差し伸べた人に裏切られる人生




愛が強い人って依存されやすいのかもしれないですよね。優しさに依存されて相手がストーカーになるっていうこと、僕も経験あります。

岩坂:これは僕の持論ですが、男は本能の部分で女性を「守らなきゃ」っちゅうのがあって、それが強い男はまんまと使われて、自分の弱さ、優しさを見抜いたその手の人たちに、愛され依存される。何度も同じことを繰り返してしまうわけです。

意図的に悪いことをして騙して、こいつから金を取って、身体を求めて、最終的に痛い目にあう、だったらまだオチがつくんですけど、毎度毎度「大丈夫?助けるよ?」で手を差し伸べた人に裏切られる人生なので、まあトラウマになっちゃう。


そうですね、わかります。

岩坂:僕の1番悪い部分でもあり、弱さ故の優しさの特徴なんすけど。うん、なんか辛かったんですよね。

それで大阪から別府に逃げ帰った僕が次に出逢ったのが大分で始めたアルバイトのお客さんだった子で。もう見たらすぐわかる。この子病んでるなーと。周りは気付かないんですよ。元気がいい、みんなの人気者のべっぴんさんだったので。ある時、僕には辛そうに見えたから「あんまり無理せんでいいよ。きついだろうから無理しなさんな」って言ったんですよ。そしたら彼女は本質をわかってくれる人に初めて会ったと。そこから仲良くなって、好きになって。互いにお金もなかったから、別府の家から、雨の中でも毎日バイクで会いに行って。

大分の都町に通って仕事して、夜中帰って、そこから会って、朝また仕事に行く。傷を舐め合ったと言ってもいいかもしれない。何もない若者2人が結婚しよう。いつかお店を出そうよ。2人の飲食店が持てたらいいねって夢を語りあった。それが前の奥さんなんです。


前のというと、今の奥様とは別の?

岩坂:そうですね。これも詳しくはインタビュー外で(笑)


ラクテンチにて

女性とのエピソードを聞いてるはずなんですが、不思議と岩坂さんの内面の話を聞いてる気分になりますね。

岩坂:今まさに話してるこの場所で、最後の最後まで泣きまくったり、過呼吸になるぐらい初めてビニール袋のお世話になるっちゅうダサい経験もしたり、離婚届にハンコ押して、突然、いや時間的には突然ではないんですが、突然1人ぼっちになった。


ごめんなさい。なんか涙出てきました(笑)

岩坂:(しばらく2人泣いてしまう)おっさん2人で泣いてるインタビューなんて誰か読みますかね?


いいと思います。やっぱりこうやって本音で話したいですよ。

岩坂:ありがとう。神父さんもやっぱり優しいね。
それで1人じゃ何もできんけん、バイトも募集しなきゃだし、どうしたらいいんやろうってところから始まって。でも、これが自分の人生の大きなターニングポイントになるんですよ。

店の前に張り紙をしたら、それを見てくれた別府大学に通ってた中国人の3人の男の子とAPUに通ってたタイ人の女の子の4人がバイトできますか、って聞いてきてくれて。お互いコミュニケーションも取れないような状態でしたが、藁をも掴む思いで彼らにアルバイトに入ってもらって。お互いに外国人で英語も日本語もままならないところから始まって。でも言葉が通じないからこそ、たどたどしい英語でコミュニケーションするから学びが始まるんですよ。言葉じゃなくて、魂で話すっちゅう感じですね。

そこから今までAPUのタイの子たちがずっと繋げてくれたんですよ。卒業の度に後輩のいい子を紹介してくれるんですよ。そのおかげで僕は1人ぼっちにならずに済んだし、店が潰れんで済んだのはあの子たちのおかげです。彼らは本当に強かったですよ、僕と違って。


コロナで色々制限されたからこそ、本当に大切なものがなんなのかを考え、実際に行動したってことですよね。僕もコロナがあったからってわけじゃないですが、挑戦することの大切さを改めて感じた期間でしたね。心が動かないからやらないっていいわけする人が多いんですけど、それって逆で、やってみて初めて心が動くんですよね。だから、まずはなんでもわからないなりにやってみる。売れないかもしれないけど作る。作り続ける。身体を動かす。そうすると心が動く。岩坂さんがやったことも多分同じなんじゃないかと。

岩坂:そうですね。心が動くまで待ってたら、あっという間にじいさんですよね。後々再婚もするんですけど、うちの嫁さんかっこいいけん、前の妻の時の借金で色々迷惑もかけたんですが、お金の呪縛に捕われてなくて。その考え方に影響を受けたことも大きいかもしれないですね。


素敵な奥様ですね。

岩坂:ありがとうございます。僕はカンボジアが1番好きな国なんですけど、色々調べると悲惨な歴史があったりして、戦争資料館とか亡くなった方を埋葬してる場所とかに行って、色々考えたんですよ。いっぱい考えて、生きるってなんなんやろって。どうして人間は死んだり殺されたり、殺し合ったりするんやろって。俺たちが今死んだような目をして、お金を稼がなきゃ、生きていかなきゃ、お金を持って豊かにならなきゃって必死になってる今のこの日本で、なんで笑ってる人が少ないんだと。


そうですね。悪い貧しさですよね。日本人は優しいと言いますが、それって今や褒め言葉ではないし、もっと言えば、日本国は全然優しくないし。

岩坂:自分もずっとそうだったんですよ。金もない。稼ぎ方もわからない。学歴がないからバカなんすよ、と言って全部を否定してきた。でも今はコロナがあって、大切な人達との出会いがあって、借金を返し終えて、好きな国を旅するようになって「好きなように生きる」ことの大切さに気付いたというか。


その辺りからですか?タトゥーを入れ始めたのは?

岩坂:コロナになって、こんなに頑張ってきたのに店潰れるんや、何のためにやってきたんかな、こんなオチかよと思ったら腹が立ってきて。人と同じようなやり方をしない自分を信じてやってきたから、終わるならやりたいことを自分にやってあげてもいいんじゃないかと思って。


昔から入れたかったと最初にお会いした時にも言ってましたもんね。

岩坂:入れ墨、入れ墨、入れ墨って考えたら我慢できなくなってきて(笑)でも、入れちゃダメ、うちの親にも入れ墨だけは絶対入れるなって言われてたので。


僕もダメと言われたことをやりたくなります。逆境フェチですね。

岩坂:そう言われたらそうかもしれないですね。タトゥー入れてる友達がすごく羨ましくて。ちょっと見せて見せてと触りまくったり(笑)別府はAPUがあるし、観光客も多いから、いろんな人種がおって、いろんな肌の色、顔形がある中で入れ墨入れとるやつなんか、なんぼでもおるやないですか。みんな自由にさらけ出してる


変態が多いですよね。人と違うことを否定しない人達。

岩坂:かっこいいな、自由だな、でも俺はそれをしちゃダメなんだとはなから諦めてて。今回のコロナで、さらに自由を奪われた。外に出ちゃだめ、家にいなさい、マスクしなさい、注射を打ちなさい。もうコントロールされてますよね。その反動でもあったかもしれないですね。

48歳になってしまったけど、今しかないやろっち思って、嫁さんに言ったら「あんた何を言いよんのかい、馬鹿か?」と。「今はただでさえお客さん誰も来んのに、これで入れ墨まで入れちょんち、常連さんに知れたら誰も来んで」ほんとにそうで、常連さんに助けてもらったところもあって、年配者の人とかは入れ墨に抵抗ある方も多いので。

それでもこのタイミングを逃して、またずっと後悔して、5年後、10年後に俺あの時入れたかったんだけど、嫁さんと娘に「あんたらが入れるなっち言ったけん」みたいな言い訳をする人生になっちゃうと思ったんですよ。だから迷惑かける場面もあるかもしれんけど、入れさせてくれと。


2匹のツバメを入れることから始まるんですけど




挑戦することに年齢制限なんてありませんからね。

岩坂:それで2022年の5月ぐらいに2匹のツバメを入れることから始まるんですけど。

ツバメですか。なんでまた?

岩坂:アメリカントラディショナルというアメリカの伝統的な図案で、 船乗りが無事に航海を終えて元ある港に帰ってこれますようにと祈願するのに、同じ巣に戻ってくる2匹のツバメのタトゥーを入れる習わしがあるんだっちゅうのを知って。要は僕は幸せになりたかったんですよ。だから1番にそれを入れました。


人柄の表れた良い表情で笑う

実は春に別府に帰ってきた時に祇園温泉で撮影するかもしれなかったので、1回下見で入りに行ったんですよ。その時に祇園温泉の隣に公園があるじゃないですか。風呂上がりに休んでたら、2匹のツバメが交尾するみたいに飛んでて。その時隣にいたおっちゃんが「2匹のツバメが飛びよんわ、いいのぉ。恋の季節や」って言ってて同じ祇園温泉だったんで、今びっくりしました。

岩坂:シンクロするよね、色々。僕もいっぱい勉強するようにしてて、考え方とかね。自分には不幸しか舞い込まない、またいつか誰か俺を騙すんだろうっちゅうのがいつもあって、もう怖くて怖くてたまんないんですけど、願いを込めてこの2匹を入れるっちゅうとこからスタートしてタトゥーが増える度に生きやすくなってる感覚はありますね。

ぜひメイキングでタトゥーの説明も聞かせてください。岩坂さんはやりたかったことを1つ形にしたわけじゃないですか。僕の場合は別府の人たちに教えてもらったんですよ。自分のやりたいことをやっていい、自分が好きなものを好きって言っていいんだって。

岩坂:僕は自分を信じた結果の行動が入れ墨を入れることだったんですよ。まさにやりたいことをやったんですよね。40代後半になって初めて。

たまたまそれが入れ墨だっただけであって、別に方法は何でもよかったわけですよね。僕も今は写真家をやってますが、元々は音楽をやっていたし、要はなんでも良かったんですよね、表現できれば。

岩坂:たしかに入れ墨も表現の一つですよね。


「神父くんは一緒に入りながら撮るんだね」と岩坂さん

別府って公衆浴場もそうですけど、市営の温泉も全部タトゥー入れ墨オッケーじゃないですか。実際に入れてみて何か変わりましたか?

岩坂:実感はないんですけど、祇園温泉でも特に白い目で見られてる感じはないです。これって実は1番気にしてるのは、人じゃなくて自分なんですよ。

なるほど。

岩坂:あんたどう思っちょんのって、言うほど人のことなんてみんな実は興味ないんですよ。どう思われるかな、俺は変なヤクザじゃないよとか、ずっと気にしてるのは自分の方で。でも堂々とすることで、あなたらしく生きていいんだよっちゅうのを伝えたいっていうのはあるかもですね。

やっぱり自由に生きられないから、そういう人を見ると羨ましいからみんな文句言うんですよね。だったらやればいいじゃんっていう、でもやらないんですよ。タトゥー入れるのも、おっぱいが好きだって言うのも、ドブ板営業も、みんなやればいいんですよ。

岩坂:僕は長い間、やらない側でしたね。

もっとみんなもやる人になっていいじゃん?っていう。僕はそれを別府の人たちに、自由に生きていいけんっていうことを教わったんで、別府の人に助けられたんですけど。でも、真逆の人たちもいるじゃないですか。岩坂さんと最初に話した時に別府っていいよいいよってみんな言うけど、果たして本当にそうなの?っていう。

岩坂:僕はずっと別府にいるので、疑問だらけでしたけど、今日神父さんと撮影しながら、ああ、実は目の前にこんな川が流れてたんだとか、感じ方一つで見え方も変わるというか。子供の時に見れていたものをもう何十年も無視して必要としてない。多くの人がそんな感覚で今を見てる。便利なもの、都合のいいもの、携帯の情報、そういったことしか目に入ってない。もしかしたら神父さんの感性で別府をみることができたら素敵に見えるのかもと思ったり。

マイナスな部分はわかってはいるんですよ。でも、それすら愛したいというか。もちろん愛のないものには共感できないですけど。

岩坂:不謹慎かもしれんけど、別府の街は海外の子たちを受け入れてる部分はもちろんあるけど、当事者であるうちでアルバイトしてくれた子たちと腹を割って話した時に、ポツリポツリというのが、中国系の顔をしてるタイ人の子って差別されるんですよ。別のアルバイト先に行った時に「あんた何人かい」っておばはんに言われると。中国人かい、韓国人かい、って。私タイ人ですっていうと「そうかいタイ人かい。じゃあいいわ」と。僕らが植え付けられたアジア人差別は特に韓国、中国に対してはいまだに根深く残ってる。でもそんな人も確実に別府市民なんですよ。

実際に別府で言われたことですもんね。

岩坂:当事者の彼らは嫌な思いしてるし、でも嫌な顔できないから、ニコニコと合わせて別府の人たちと共存するのをやってくれてる人もたくさんいるんですよ。僕たちは受け入れてるようで受け入れてない気がするんですよね。

別府好きの僕からすると、色々考えさせられる話ですね。

岩坂:別府の人って優しい、受け入れるって言いますけど、正直言うけど、温泉で顔合わせるのに未だに挨拶せんようなおっさんめっちゃ多いっすよ。そういうやつって外ヅラはいいのかもしれないですが、目が死んでて。常識に囚われまくってて。俺は常識人だ。仕事も車も家族もあるってやつに限って何にも優しくない。挨拶1つできないです。もしかしたら僕の見てくれで判断してるのかもしれないですけど、それこそ最低ですよね。

「別府の人はタトゥーにも偏見がないよね。
挨拶しない嫌なやつはいるけど笑」

そうですね。たしかに受け入れる人ばかりではないですね。

岩坂:裸になることで、温泉に入ることで、祇園温泉で気付かされたんですよね。人の本質というか。こんな奴らが実は世間ではまともな人たち、常識人、普通の人たちって思われてるんだって。普通ってなんだよって思うようになったんです。だから、神父さんは別府の魅力は人だって言いますけど、全ての人が面白かったり、変態だったりするわけじゃもちろんない。11万人ぐらいの人口の中で、硬い考えっていうか、いわゆる普通の人たち、常識人っていう人たちもめちゃくちゃたくさんいるわけなので。そういう人たちに反面教師的に教わることもあるけど、むしろ変態なんてほんの一部だと思うんですよ。

たしかにおっしゃる通りです。僕みたいに別府大好きだって言ってるそのいい面だけが別府の全てじゃないっていうことはよくわかってます。ただ、そのマイナスな部分も全部ひっくるめて愛について考えさせられる街だということは間違いないです。

岩坂:観光地なのに排外主義な人も多いですよ。街をちょっと歩くと、人も全然いないし、みんな目が死んでますもん。みんな目は死んでるのに、海外の人たちウェルカムっちゅうふりをしてる。コロナの時それが表面化しましたよ。メッキが剥がれたんですよ。あれだけ留学生や海外の観光客ウェルカムって言ってた人たちが、張り紙張って外国人お断り、県外の方お断りって。そんなやつらが普段は多様性万歳言うてるんですよ。何が受け入れるだよ。お前らいつも都合のいいことばかり言いやがって、と思ったりするわけですよ。

たしかに僕も別府人ならもっと優しくしてほしいなって案件を目の前で見ることもありますね。

岩坂:ほんとに面白い人とかたぶん、1割2割いればいい方でしょ。ただまぁその1割2割が神父さんの言うようにぶっ飛んでて、スーパーなのかもしれないけど。

そうですね。別府には変態がいて、それを受け入れる人がいて、もちろんその逆の人もいて、魅力を感じる人もいればそうじゃない人もいる。商売してたら綺麗事だけじゃやっていけない部分もあるわけで。

岩坂:物質主義やお金からの離脱を目指してるつもりなんですよ。でも現実は日々お金を追いかけている商売人、飲食店のオーナーでしかないんですよね。もっともっといろんな人と対話して、新しい知識を手に入れて、人生ずっとそうやって学びながら生きていくしかないっていう。学びをやめた瞬間から、人は死んだ目になっていくと思うんですよ。

別府には死んだ目をしている人がいるっていうのは新しい切り口で新鮮です。

岩坂:なかなか言えないよね。こんなこと言ったら嫌われるんすよ。商売してるけんね、みんな。でも、やってるふりしてるやつらばっかりなんですよ。それをハートだピースだなんだって、指先だけでアピールできるインスタやらで自慢する。客も来るし、バイトの子達にも恵まれてます、みたいなフリするバカタレばっかりなんですよ。観光客に助けられてるだけで、ありがとうのメール一つ送れない。

たった一言のありがとうがあるかないかだけで、印象って変わりますよね。

岩坂:うちも繁盛店で行列ができて、毎日儲かってる店になってますか?っていったら全然なってないですよ。でも、そこじゃない。そうなってなかったら負け組だとか、上とか下じゃない。言うならば、俺の理想の高みを目指してるから。そら熱湯とぬる湯じゃ、混ざらんぜ(笑)

僕は岩坂さんの生き方をかっこいいと思うし、僕もそうやって生きていきたいと思います。一言で言うなら「想いを大切にする」生き方ですかね。自分がやりたいことを我慢しないってのは自分の想いも大切にするってことですからね。でも、それに気付けない人たちが大半だから。別府に住んでたってそうですし。それを体現してる先輩がいる、そういうかっこいい大人がいてくれるっていうのはありがたいことです。

岩坂:そう言ってもらえるなら嬉しいね。お互い別府出身同士そういう風に生きていきたいよね。見た目はちょっとオシャレにすればよくなるけど、本当の良さはそこじゃない。それはなんなのかといえば、やっぱり想い。本当の意味での優しい男になりたいね。人を笑顔に出来る優しい男になりたい。

常連のおいちゃん達とも仲良し

さっきも言いましたが、弱さと直結するじゃないですか、優しさって。ズルい優しさもある。でもそうじゃない優しさもあって。愛嬌のある優しさもあれば、もっと強い優しさもあれば、厳しい優しさもあるし。

岩坂:全部ひっくるめて優しい男になりたいっていうことだよね。いや、わかるよ。俺もまさにそれを目指してますね。

多分その最終的な言葉が「かっこいい男」だと。いや、もっと誠意とか品格のある感じですかね。

岩坂:品がいい。

組合長さん達と一緒に撮影
「綺麗なモデルさんが来ると思ったら、あんたかぇ笑」

あぁ、いいですね。品がいい男。

岩坂:なりたいっすね。

なりたいですよね。「別府の男はみんな品がいい」そう言われる街にしていきたいですね。

岩坂:たしか品がいいって昔はかっこいいみたいな意味でも使われてたと思うから。それを目指していきましょう!

撮影協力ありがとうございました




MODEL PROFILE

名前:岩坂忠恭(Tadayasu Iwasaka)
年齢:50歳
出身:別府
職業:居酒屋店主


CREDIT

タイトル:品がいい男
撮影日:2024年10月10日
写真撮影&インタビュー:東京神父

撮撮影協力:祇園温泉、別府市、別府市温泉課、とことわ



※温泉や個人の情報は全て撮影当時のものです。

ONSEN INFO

祇園温泉

元々は道路の反対側にあったが、昭和四十年頃に現在地に移された。温泉は上原町の一の出泉源から給湯を受けている。湯は柔らかく、利用者はほとんどが地元住民。



住所:大分県別府市朝見3-9-5


営業時間: 6:00~11:00、13:00~23:00
第1~第4日曜6:00~23:00


入浴料金:100円


泉質:単純泉


地図:湯巡りマップ


公式HP:別府八湯温泉道サイト



BEPPU ONSEN ROUTE 88