BEPPU ONSEN ROUTE 88

No.19

土井あづみ

此花温泉 光町大火で焼失も再興した温泉

土井あづみちゃんは別府の大学生。今回の撮影は彼女に密着し、別府の大学生の1日をお届けするというもの。モットーは「一日百笑」という彼女の笑顔溢れる暮らしは、人と繋がる別府ならではのとても濃いものでした。


Writer & Photographer : 東京神父

長い一日密着が始まります

撮影日、あづみちゃんには自由に休日を過ごしてもらいました。彼女の人間力、そして別府の縁の力で沢山の方と一緒に撮影させていただきました。平凡で特別な別府の大学生の1日をいつものインタビューとは違う形でお楽しみ下さい。今回はかなり長くなりますが、ついて来てください(笑)



am6:00 濃い1日の始まりは濃い珈琲で

「すっぴんも全然OKです」潔いあづみちゃん

撮影当日、僕らは朝早くあづみちゃんの家の近所の海で待ち合わせた。「パジャマですみません」そう言って現れたあづみちゃんは起きてそのままの格好で家を出てきたという。

「リアルな大学生の休日を撮るなら、いつも通りじゃないとですよね」そう言って家で淹れてきた濃い珈琲を差し入れてくれた。本来ならこちらがモデルさんのモチベーションを上げなければならないのに、美味しい珈琲に僕の方のテンションが上がってしまう。

am6:30 別府湾で朝食を

「朝ご飯はこの場所で海を見ながら食べることが多いです」

天気はあいにくの曇りだったが、気持ちのいい春の海風が吹いていた。家の目の前が海なんて本当に羨ましい。近所のゆめタウンであづみちゃんが買ってきたパンを食べていると「なんかの撮影かい?」と1人のおじさんが声をかけてきた。

津久見市にある保戸島出身で、16歳から定年までまぐろ漁船に乗り、世界中の海を見てきたという中島さん。娘さんが別府に嫁いだので、たまに別府に遊びに来るという中島さんは県漁連の会長さんの船に20年乗り、その後46人の船員をまとめる船長を務めたという。映画が一本撮れそうな生い立ちだ。

「遊びたい時には遊ばなきゃダメさ」と中島さん

珈琲が冷めるまで話し込み、別れ際には船員の数は62人にまで増えていたけれど「保戸島に来る時は連絡しな。案内してやるさ」と言ってくれた。

娘が住んでいるから、と帰っていったのはなんとあづみちゃんと同じマンション。お隣さんのお父さんはまぐろ漁船の船長だったわけだ。波乱の幕開け。別府の1日はまだ始まったばかりだ。

am7:30 猫は被らない

「準備するので少し待っててください」

あづみちゃんは現在ルームメイトと二人暮らししている。実は家のお風呂も温泉だという。「もの凄い勢いでお湯が出るんですよ」と嬉しそうに話す。「よければ家の温泉に入る所も撮らせて欲しいんだけど」とお願いすると「いいですよ。見たらビックリしますよ!」と即答してくれた。僕が父親だったら心配になるが、この猫を被らない性格が密着しようと思った一つの理由でもある。

am8:30 「お町」と「下界」

「いつもより荷物多いです」

昔は別府の駅周辺に遊びに行くことを「お町に行く」と言っていたと母が教えてくれた。APUの学生は別府(市内)のことを「下界」と読んでいる。これはAPUが標高300mと高い位置にあるためだが、休日を下界で過ごす学生も多い。


秋葉通り

APUは2108年度、88か国もの留学生が在籍していた。卒業してそのまま別府に住む学生もいる。別府が人種という意味においても多様性のある街になっていることは明らかで「人」「温泉」「観光」が混ざり合い、新しい文化が生まれる可能性を秘めた街になりつつある。個人的にはここに「夜」が混ざるともっと面白くなると思っている。

am8:45 「キャプテンの土井と申します」

※本人顔出しNGのため

まずは朝風呂に入りに行くというあづみちゃんを街で撮影していたら「FURO JACK CITY」でモデルになってくれた剛さんに遭遇。あづみちゃんがバイトしていたという某テーマパークのナレーションのモノマネで盛り上がり(バイトしていたので本物か)そのまま剛さんの住むマンションの屋上で撮影させてもらえることに。


「ゆめタウンゲットだぜ」

am9:30 素朴の王様「友永パン屋」

毎日長蛇の列が出来る

友永パン屋」は別府で一番有名なパン屋だ。創業大正5年の老舗で、警備員が車の誘導をしていたり、注文を紙に書いて渡すなど、普通のパン屋とは少し勝手が違う。僕も小さい頃からよく「バターフランス」を食べていたが、ここでしか食べられない素朴なパンの味は絶品だ。

あづみちゃんは翌日の朝ごはん用にパンを買いたかったそうだが、残念ながらこの日はかなり混雑していたので、購入は諦め此花温泉へ。「買えない時は買えない理由があるんですよ」前向きな発言と表情のギャップが面白かった。

am9:45 大火災からの復活「此花温泉」

光町1区自治会長の星野さんと

ルートハチハチは温泉で撮影をしているので、ほぼ全ての場所で許可を取る必要がある。この作品は別府市温泉課に協力して頂きながら撮影を進めているのだが、二つ返事でOKの温泉もあれば、しっかりと手順を踏まなければ撮影出来ない場所もある。

錦栄温泉を撮影した時のメイキングを読んでもらえれば分かるが、しっかりとコミュニケーションを取ることが何よりも大切だ。別府の人は対話を大事にするので「groove」が肝心だ。こちらにきちんと熱い想いがあれば、温泉によっては入浴者の方や自治会長さんなどの貴重なお話が聞けることもある。

星野さんは2010年の別府光町大火の話を聞かせてくれた。一夜にして23棟もの家屋が全焼。鎮火まで5時間半かかるという別府市では戦後最悪の火災だったそうだ。星野さんも復興の為に奔走した一人であり、此花温泉も沢山の方の助けと地域の方の繋がりで2011年に復活した。

ボツショットだったが、どうしても載せて欲しいと言われた一枚(笑)

最近では新しいマンションも増え、別府でも外ではなく家でお風呂に入る人が増えた。毎日温泉に通うという人は昔に比べると随分減ったそうだ。温泉を維持していくだけでも大変で、管理者の高齢化も進んでいる。星野さん曰く、それでも温泉がなくならないのは別府の人々が温泉が大好きで、そして何より地域の人達の交流の場としての役割があるからだそうだ。

am10:30 手を重ね、歳を重ねる

3人で手を繋いで記念撮影

此花温泉を後にして自販機でスコールを買って飲んでいると、お風呂道具を持ったお婆ちゃんがお爺ちゃんの手を引きながら歩いてきた。それを見たあづみちゃんが声をかけた。「こんにちは、これから温泉ですか?」「そう、いつも一緒に行くのよ」これから此花温泉に行くというお二人。お婆ちゃんは話しながらもお爺ちゃんと繋いだ手を離そうとしない。素敵なご夫婦だ。


温泉上がりのスコールは最高です

僕は先ほどの星野さんの言葉を思い出した。「温泉は高齢者の方の生存確認の場所でもあるんですよ。毎日温泉で顔を合わせる人に会わなくなると心配になりますから、近所の方が様子を見に行ったりします。火災があってからは近所の人達の繋がりも強くなったような気がします」

人生は失敗や挫折の連続だ。それでも発想を転換することで、何度でもやり直すことが出来るし、災害ですらプラスにすることが出来るのだろう。「ほら、パン買ってたら今のお二人には会えなかったですよね?」あづみちゃんが言うように人生は考え方一つだ。



am10:40 雑草を抜くと心の棘も抜ける

「BTS?そりゃ新しいTV局かえ?」

此花温泉の近くを散策していると、雑草を一生懸命抜いているお婆ちゃんがいた。「お婆ちゃん、何してるんですか?」あづみちゃんは積極的に声をかけていく。撮影だからというわけではなく、割と普段から声をかけるそうだ。「お花が綺麗だからね、掃除したら見た目だけじゃなくて、心も気持ちいいでしょ。まぁ、あたしの土地じゃないんだけど(笑)」

人の土地の草むしりをするお婆ちゃんは「心が気持ちいい」と言う。2人が会話している姿を撮影していると僕もそんな気持ちになった。あづみちゃんは距離の取り方が上手い。近すぎて自分の話ばかりということもないし、遠すぎて消極的になるわけでもない。

別府という街の歴史、花の名前や、流行りの音楽まで、こんな風に世代を超えてコミュニケーションを取り、互いの経験や知識を伝えあえれば、街も国も世界も、もっと優しくなれる気がした。

am11:10 温泉で染め、温泉に染まる男

とにかくよく笑うあづみちゃん

清島アパートの前で煙草を吸っている男性がいた。「神父さん、何やってんすか?」旅する服屋さんとして活動しているユキハシ君だ。 「今学生に丸1日密着するっていう撮影をしてて」「また変態なことやってますね(笑)」そんな話をしているとあづみちゃんが「どこかで一度お会いしたことありますよね?」と声をかけた。「そうだっけ?そうかもだね」ユキハシ君もうろ覚えのようだ(笑)


カトレア醤油を作っているフジヨシの看板前にて

狭い街だからこそ、こういう出逢いが至る所で起こるのが別府だ。よく覚えていなくても会話は弾む。オープンな人が多いし、そのオープンな人に惹かれて別府に移住してくる人達もやはりオープンだ。旅する服屋さんとして、ずっと旅してきた彼が別府に腰を据えて「温泉染め」を極めようと思った理由は是非No.06の松原温泉でチェックしてほしい。

その後、僕らはあづみちゃんが前々から行ってみたかったというお店で昼食をとることに。せっかくなので、昼の部はあづみちゃん目線で語ってもらおう。



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