BEPPU ONSEN ROUTE 88

No.52

あんり

桜湯 別府の家族風呂といえば桜湯

別府出身、大分で保育士をしながらギャルインフルエンサーとしても活躍するあんりちゃん。朝見神社で声をかけ、別府から湯布院に一緒に行くことになり、その日のうちに別府の家族風呂で撮影するというドキドキのシチュエーションに。いつものインタビューとは違う、あんりちゃん目線で撮影の1日を綴ってもらいました。どこまでがフィクションで、どこまでがノンフィクションなのか?メイキング含め、ぜひ最後までご覧ください。


Writer & Photographer : 東京神父

八幡朝見神社

彼氏と別れて一週間が経った。
私の座右の銘は「楽しいことも楽しくないことも、全て自分のものになる」だから、この経験も必ず自分の糧にすると決めて、朝早く起きて「八幡朝見神社」で決意のお参りをした。

鉄輪で生まれ育って実家ごと田の湯に引っ越した。別府の人の良さも悪さも嫌というほど見てきたけど、温泉が溢れるこの街だからこそのエネルギーの前では、全てがちっぽけで些細なことにすぎないと思うようになった。この胸の痛みも、誰かの陰口も、近所の公衆浴場に行った帰りにどすっぴんで歩いているところを知り合いに見られても、別府の圧倒的な自然の前では大した問題じゃない、多分。

三十代になってもまだまだ欲しいものは山ほどあって、ヴィトンやワインも変わらず好きだけど、得たものよりも失ったものの方が私を強くするから、大切なものを失ったこの痛みをしっかり感じながら、今日は思いっきり「自分らしくない初めてに挑戦する」と決めて実家の玄関を開けた。

萬太郎広場の桜

神社のすぐ下にある萬太郎広場の桜を撮っていると「すみません、よかったら桜をバックに写真を撮らせてもらえないですか?」と、武器みたいなカメラを持った小洒落たおじさんが声をかけてきた。少し迷ったけど、素敵な髭を生やしていたから、顔を写さないならと承諾した。

「別府のかたですか?」プロの写真家だというその人はシャッターを押しながらずっと喋っている。質問ばかりで何も指示してくれないから、どんな顔をして写ればいいか分からなかったけど、そもそも顔は撮らない約束だった。

写真は「今」しか撮れないものが残せるから撮るのも撮られるのも好きだけど、スマホ以外で写真を撮られるのは久しぶりだったから、なんだか少し緊張した。

「カメラは忘れて、さっきみたいに自然に桜を見ててもらえたら」それが出来たら苦労しないんだけど、と思った瞬間に桜の花びらが降ってきて、思わずカメラを忘れて「わー」と飛び跳ねてしまった。「ありがとうございます。いい写真が撮れました」そう言ってその人は子供みたいな顔で笑った。


今日はインスタのリール用の動画を撮りに、湯布院に新しく出来たカフェと行きつけのバーに行く。「ギャル保育士が大分グルメを紹介する」のが私のアカウントの売りだ。フォロワーが何万人もいるようなインフルエンサーではないけど、お洒落で可愛い場所に行って、美味しいものを食べて、そこで生まれる出逢いや縁、そして何よりフォロワーさんの反応が楽しくて投稿を続けている。最近では私の投稿を見てお店に行ってくれる人も増えてきた。

何日か前に紹介した「別府ホルモンひめの」のマスターも「あんりちゃんのおかげでフォロワーが増えた」と言ってくれた。そういう感謝の言葉がとても嬉しかった。ちなみにここのホルモンはマジで美味しいからおすすめ。

私は自分のことを自分でもミーハーだと思う。でも、自分の好きなものを追いかけるパワーと注目されたいという心意気は誰にも負けない。結果はどうあれ、人生も生活もSNSも楽しまなきゃ。きっとその「熱」がインスタを継続出来ている理由なんだと思う。

「SNS疲れ」なんて言葉があるけど、疲れたことなんて一度もないし、疲れるならやめたらいいのにと思う。正直インスタグラムがなかったら、失恋から立ち直れずにもっと長い間引きこもっていたと思う。人を見るのも、人に見られるのも好きだから、SNSは自分の性に合っている。恋愛だけはいつも疲弊するし、続かないけど(笑)


「僕も別府プロモーションという別府を応援するアカウントをやってるんですよ」別府出身というそのカメラマンは「東京神父」と名乗った。「若い頃に上京して、今は東京と別府の二拠点生活してます」なるほど、どおりで名前も雰囲気も全然別府っぽくない。

今から湯布院のカフェとバーにインスタ用の動画を撮りに行くと言うと、神父(面白いからそう呼ぶことに決めた)が一緒に行きたいと言い出した。別府人にしてもいきなりすぎる。ナンパなのかと思ったけど、どうやら私の行きつけのバーのマスターと知り合いらしい。

「僕もよく葉巻を吸いに行くんですよ。ご馳走するのでご一緒出来ませんか?見た目はこんなだけど、根は真面目です」自分から真面目だなんていう男は大体遊んでる男だし、いつもなら秒で断っていたと思うけど、ついさっき「自分らしくない初めてに挑戦する」と決めたばかりだったことを思い出した。

「素敵な出逢いがありますように」そうお参りしたばかりだけど、もしかしたらこれは温泉の神様の仕業かもしれない。神社で神父に声をかけられるなんて嘘みたいな話だし、神父は私が動画を撮影している姿を写真に撮ってくれると言っている。たまにはカメアシがいるのもありかも。私はその誘いに乗ってみることにした。

由布院うまいもん研究所

車で湯布院に向かうまでの道中、神父はとにかく喋り続けた。いかに別府が面白い街かを熱弁している。私もここ何ヶ月かの元カレとの壮絶な恋愛を吐き出した。

神父は「それは辛いねぇ」と共感してくれたけど、この気持ちを誰かに分かってほしいなんて思わない。心を悲しみのハンマーで砕かれるようなこの独特な痛みは、今まさに同じ痛みを感じている人にしかわかりっこない。とはいえ、痛みを感じながらも私は足元じゃなく、前を向いている。そう言うと、神父は「男子は過去に忙しくて、女子は未来に忙しいからね」とそれっぽいことを言った。

イケてる髭と綺麗な手は私好みだったけど、神父は既婚者だったから恋愛対象からはすぐに外れた。神様に祈ったところでそんなにすぐに王子様は現われないし、私は未来より今に忙しい。

1時間ほど話して分かったことは山ほどあったけど、興味深かったことは2人とも実家が田の湯だということと、見せてもらった神父の撮る写真がとても素敵だったということだった。本当にプロなんだ、と猜疑心が少し晴れた。

大阪の夫婦が営むアンティークショップ「道頓堀」

途中、うちの母親が「駅前高等温泉」に通っているという話で盛り上がっていると、神父が突然「ごめん、ちょっと車止めれるかな?」と言い出した。ファミマの駐車場に車を止めて 「道頓堀」というアンティークショップに入った。老夫婦がやっている猫ちゃんが沢山いるとても素敵なお店だった。

神父はさっと写真を撮ってすぐに車に戻った。「突然ごめんね。いい感じのお店だったから、写真撮りたくて。ありがとう」と言って、また子供みたいな顔で笑った。カメラマンってみんなこんな感じなのだろうか?嗅覚が鋭いというか、童心が強いというか。

やまなみハイウェイを走り、城島(城島高原パーク)を越え、木々のトンネルを抜ける。徐々に歩道に観光するアジア人が増え、湯布院に着いた。楽しい時間はあっという間だ。



湯布珈琲

金鱗湖」近くの駐車場に車を止め、いわゆる湯布院観光のメイン通り「湯の坪街道」を歩き、途中「由布院うまいもん研究所」で豊後牛にぎりを神父に奢ってもらった。無理やりついてきたんだから、そのくらいしてもらわなきゃ。そのすぐ隣に行きたかった「湯布珈琲」がある。

熊本市の珈琲回廊がプロデュースするロースタリー&カフェで、古民家の梁や瓦屋根を残しつつ、和モダンにリノベーションしたインフルエンサーが紹介したくなるようなお店だ。「僕も撮影したいから許可とってくるよ」そう言って神父が撮影の許可をサクッと取ってくれた。さすがプロカメラマン、慣れてる。



配置と光の調合は大事

なるべく他のお客さんの迷惑にならないように撮影していると、若い社長さんが挨拶に来てくれた。何やら神父と親しげに話していたけど、2人とも髭がとても似合っている。そう、何を隠そう私は髭フェチだ。

帰りに珈琲のお土産までいただいて、大満足のカフェ巡りになった。「インフルエンサーってあんな感じで撮影してるんだね。勉強になったわ」神父はそう言いながら、私が撮影に使った「湯布団子抹茶ラテ」を飲んでいる。髭に抹茶がついていて、写真を撮っている時とのギャップが凄かった。

「せっかくだからちょっと観光する?」神父は金鱗湖の湖畔に混浴の温泉があるから見に行こうと誘ってきた。入りに行こうだったら断っていたけど、確かに「下ん湯」という温泉は外観も浴場も(撮影NGだったので写真はないけど)なかなか風情があった。それにしても「湖畔の混浴」だなんてえろい響き。


金鱗湖は観光客だらけで、私たち2人以外全員アジア人に見えた。ブラブラと湖の周りを歩いていると、鳥居に鳥が3羽止まっていた。全く逃げないので観光客のシャッター音の餌食になっていた。

神父は2、3枚カシャっと撮って「じゃあ、ちょっと時間早いけどバーに行こうか」と言った。さっきのカフェでも思ったけど、とにかく撮るのが早い。余計なものには目もくれない。「金鱗湖は朝霧と鳥居で休む鳥が有名なんだよ」

色々と教えてくれる神父はやっぱり別府人には見えなかった。石のベンチに腰かけて2人で湖を眺めた。周りから聞こえる早口の中国語以外はとてもロマンチックに思えた。

「今日は本当にありがとう。今回の帰省ではバーには行けないと思っていたから、めちゃ嬉しいよ」そう言って、神父は店に電話をかけた。「了解しました。じゃあ今から伺わせていただきます」お店はオープン前だったけど、開けてくれることになった。



金鱗湖の鳥居に均等に並ぶカワウ

私は昔から人のことをよく観察する。小さい頃から他人と温泉に入ったり、近所を見知らぬ外国人が大勢歩いていたりしたので、人を見ることが癖になっていた。別府という観光地で育った人がみんなそうなるのかは知らないけど、いつだって心はオープンだし、人を見る目はある方だと思う。

心も体も素になれる場所(お風呂)がパブリックに開かれているというのは、思った以上に市民性に影響を与えていると思う。鎖国時代の日本でそれぞれの市町村で勝手に開国していいと言われたら、別府は真っ先に手を挙げると思う。

神父は男としてのカテゴリーからは外れたわけだけど、人としては信頼してもいいと思えた。信頼出来る人は得てして「ありがとう」の数が多い。裏表を感じないオープンさや格好つけない優しさは紳士で心地良かったし、実家も同じ田の湯だ(笑)


Bar Barolo」は湯布院に来たら必ず訪れるバーだ。ワインが好きだから、デートの時は赤ワインを飲むし、1人で運転して来る時はいつもノンアルコールカクテルのレオナルドを頼む。

おやど二本の葦束」内にあるバーで、隠れ家的な雰囲気と、アジアとヨーロッパが融合したような佇まいがある。ワイン好きの知人に紹介してもらってから通っている。と言っても湯布院自体そんなに来ないから、常連ってほどではないけど。

「煙草をやめて葉巻を吸うようになってからは来る頻度も増えたかな。普段バーなんて行かないけど、僕が世界で1番好きなバー。」神父がそう言うように、不思議な魅力のあるバーで、私が来る時は大体いつも「イケオジ」が1人でお酒を嗜んでいた。


「いらっしゃい。神父さん、お久しぶりです。別府に帰って来てたんですね」髭がイケてるマスターの佐藤さんが声をかける。「あんりさんとも知り合いだったとは」佐藤さんがそう言うと、神父は「いや、実は今朝が初対面なんですよ」と白状した。

神父が事の経緯を話すと、佐藤さんは「そんなことあるんですねぇ」と驚いていたけど、別府にいるとよくある事だ。普通の街は縁が紐みたいな線だけど、別府は縁が波紋みたいな円になってるから、繋がるというより、広がるってイメージ。

縁が切れるなんて言い方をするけど、切れてるわけじゃなく見えなくなってるだけで、周期や波長が合うとまた見えるようになる。別府に住んでいるとそんな風に考えるようになる。つまり人との縁も出逢いも自分次第ってこと。何年住んでも不思議な街だけど、色々なことに気付かせてくれる街でもある。


神父は「いつものやつで」と言い、私に「行きつけのバーで言うのが夢だったんだよね」と自慢げに言ったけど、佐藤さんに「神父さん、何飲まれてましたっけ?」と突っ込まれて私は吸っていた煙草の煙にむせた。

思わず「え?ダサっ」と言ってしまったけど、神父はお構いなしに「えーと、あれですよ。ほら、甘いノンアルコールのトニックエッセンスを使った、名前なんでしたっけ?」と自分でも何を飲んでいたのかよく分かっていない様子だった。さっきは子供かと思ったけど、これじゃ完全におじいちゃんだ。


無事に飲み物を頼み終えて、神父は葉巻を選んでいる。髭と葉巻の相性はすこぶるいい。神父は11月に行うという撮影の話を佐藤さんに熱心にしている。この人は本当に別府が好きなんだなと思った。私と同じようにちゃんと「熱」を持っている人だ。

私の長所は「明るくて元気」で、短所は「明るくて元気すぎてうるさい」だと思ってるけど、神父はどうだろう?長所は「子供っぽいのに髭が似合う」で、短所は「子供っぽすぎて警戒心がない」だろうか。

どことなく影があるから、こう見えて意外とメンヘラかもしれない。往々にして男は「すねる」生き物だし、女々しいという言葉は男にしか使わない。



葉巻も吸える「BAR BAROLO」

神父は初めてバローロに来た時の話をしてくれた。「当時気に入っていた素敵な女性に連れてきてもらって。あまりにもお店を気に入って、初めて来た時に自分の写真を飾ってくれないかってお願いしたんだよね」

佐藤さんは葉巻を火で炙りながら「そうでしたね。神父さんの写真もおばあさまの写真もちゃんと飾ってますよ」「名も知らない写真家の写真をいきなり飾らせてくれる心意気に惚れたのも、通う理由の一つかもしれない」そう言いながら、神父は葉巻を薫(くゆ)らせた。


バローロに初めて来た時、佐藤さんに「葉巻は味や香りを楽しむのは勿論のこと、その時間を楽しむものなんです」と言われて、その言葉に感動して葉巻を吸うようになったらしい。単純だけど、そういうのは私も嫌いじゃない。

たしかに今の世の中「時間を楽しむ」人が少ないような気がする。SNSには(特にX)匿名の罵詈雑言が並んでいるし、ストレスを発散させるために吸っているはずなのに、喫煙所で煙草を吸っている大人は皆しかめっ面だ。楽しんでいる人は身体も心も動いている人だと思うから、やっぱりハッピーなエネルギーに満ちている。

今日1日だけを見ていても、神父の行動力は凄かった。男は往々にして子供だけど、好奇心旺盛で目をキラキラさせている大人は時に素敵に見えるものだ。まぁ目の輝きは私ほどじゃないけど(笑)

「トイレの前に飾ってある写真は神父さんがニューヨークで撮られた写真なんですよ」佐藤さんに言われてお手洗いに行く時にその写真を眺めた。雨の中で傘を差し、タクシーを止めようと手を挙げているニューヨーカーの背中を写した写真だった。小洒落た人が撮りそうな小洒落た写真だったけど、NYの日常が写っている感じがして、私は好きだった。



バローロに飾られている写真
Photo by 東京神父

佐藤さんに次回の来店を約束してバローロを出た。別府に帰る車の中で、神父は佐藤さんに話していた「別府温泉ルートハチハチ」という企画の撮影をさせてほしいと言ってきた。「あんりちゃん目線で今日一日を綴ったら面白いと思うんだよね」

たしかに88か所の別府の温泉で別府に縁のある人たちを撮影するという企画は面白い。「温泉はデザートで、人がメインディッシュ」という「人」にスポットを当てているところも良かったし、温泉で撮影するのは楽しそうだった。何より神父が熱い想いを持って撮影しているのがわかったから、別府のためになるなら撮影してもいいかなと思っていたけど、さすがに初対面で2人っきりで温泉は早急すぎやしませんか?



ノンアルコールカクテルのレオナルド

と、思ってはいたけど「とにかく別府の変態たちを撮影したいんだよね。今日1日一緒に撮影してみて思ったんだけど、あんりちゃんを撮りたいんだよ。ギャル保育士のインフルエンサーなんてなかなかいないし、行きの車で言ってた自分らしくないことをするっていうのも今日この瞬間の勢いでやってみると新しい発見があると思うんだよ。今日しか撮影する時間がないし、こういうのは勢いとタイミングだから」

あまりに神父が熱く語るもんだから「今からお願いして、撮影許可が降りる温泉があったら考えてみてもらえない?」という提案にOKを出した。


「あんりちゃんは鉄輪出身だから、鉄輪、明礬、堀田あたりの温泉がいいと思う。家族風呂とかなら許可取れるかも!」と興奮気味に車の助手席で電話し始めた。2件目に電話した桜湯さんが快く撮影をOKして下さったらしい。

完璧に神父の作戦勝ち。せっかくだから記念にエロい写真を撮ってもらおう。私も覚悟を決めた。



桜湯の家族風呂

「もしかして、今日の朝声をかけた時から温泉で撮影しようと思ってた?」「あ、バレてた?」神父は素直に計画を認めた。上手に嘘をつける男も好きだけど、本心を隠さない素直な男も好きだ。いい写真を撮りたいって気持ちに嘘や下心はないだろうし、楽しい1日の最後が温泉なら尚良しだ。

ここ最近ずっと元カレのことを考えていたけど、今日はほとんど思い出していないことに気付いた。温泉の神様のおかげか、東京の神父様のおかげか、気持ちが楽になっていたし、何より、今日1番の目標は達成できそうだった。


別府という街で暮らしていると、こういう出逢いや奇跡が度々起こる。その時、自分がその奇跡をどう感じるかが大事だ。

親戚のおじさんにナンパされたり、流川通りを歩いてるだけで知り合いに6人もあったり、別府の居酒屋で友達と飲んでいた時なんて、その店の店員さんが同じ幼稚園に通っていた人で、なんで私のことを覚えているのか聞いたら「あんりさんが僕の初恋の人なんですよ」と言われて、レモンサワーを吹き出したこともある。あ、吹き出したは大袈裟だったかも(笑)別府に長く住む人なら、少しは同意してもらえるんじゃないかと思う。



家族風呂「比翼桜」

桜湯の家族風呂は20種類から選べる。この日は「比翼桜」という温泉で撮影させてもらった。桜湯という名前は知っていたけど、来るのは初めてだった。施設の雰囲気も店員さんもとても感じが良かった。

家族風呂に続く離れみたいな空間は高級旅館みたいに風情があってドキドキしたし、猫ちゃん(館長らしい)が普通に施設の中を歩いていたのも可愛かった。家族風呂にはお湯がたまっていなかったけど、神父が更衣室横の機械にコインを入れるとすごい勢いで温泉が出てきた。「タイマー式だから自動で止まるんだよ。いつでも1番風呂に入れる仕組み」別府人ならきっと誰もが知ってることだけど、神父は自分が最初に思いついたみたいな言い方をした。貸切のプライベート空間は特別感があった。別府にいるのに旅行に来ているような気分だった。

「企画の撮影だけど、せっかくだから記念に下着でも撮って欲しい」勇気を出してそう言うと、神父は「いいの?」と驚いていた。さっきまであんなにおっぱいが好きだとかガツガツしてたのに(笑)根が真面目だって言ってたのはどうやら嘘じゃないらしい。それともこれも何かの作戦かしら?(笑)


撮影終わりに「これ、めちゃうまいよ」と神父が「つぶらなカボス」を買ってくれた。別府ではよく見かけるけど、飲むのは初めてだった。ビックリするくらい美味しかったけど、入ってるつぶつぶが「かぼす」じゃなくて「なつみかん」だったことに1番驚いた。

桜湯を後にして、県道52号を下る。行きに撮影した「道頓堀」の前の信号で車は止まった。昼の別府は観光客が沢山歩いていたけど、夜の別府は異世界みたいに静まりかえっていた。車のオーディオからうっすらと流れる宇多田ヒカルの歌声と、窓越しに見える「春香苑」のネオンライトが綺麗だった。

最後にLINEを交換して、流川通りの途中で神父を降ろした。「記事をアップするまでちょっと時間がかかると思うけど、気長に待っててね。今日はありがとう」そう言って、神父は静かに車のドアを閉めた。



別府の老舗焼肉店「春香苑」

ほとんど湯布院にいたのに、なんだかんだ別府の凄さを感じる1日だった。別府の魅力は色々とあるけど「偶然を楽しめる」というのは私の中でとても大きい。それは偶然を起こす側にいても、起こされる側にいても言えることで、自分の全部で楽しもうと常に思っていることが大事だ。そうすると街が縁を見えやすくしてくれる。

その偶然は実は必然で、自分にとって必要なことだけが起こっている。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、そうかもしれないと思った方が人生は楽しい。私が生きるこの日常は、全て奇跡の連続で出来ている。世界一の温泉地に生まれたこの奇跡に感謝しよう。

声をかけてくれた神父にも感謝。私の今を写してくれて、私の懺悔を聞いてくれてありがとう。自分らしくないことに挑戦したからこそ、より自分らしさが分かった1日になった気がする。車を駐車場に止めて「ふぅー」と一息ついた。エンジンを切って、私は次の目標を「新しい彼氏と桜湯に行く」に決めた。



ネタバラシはメイキングで



MODEL PROFILE

名前:あんり(Anri)
年齢:31歳
出身:別府
職業:保育士


CREDIT

タイトル:妄想温泉
撮影日:2024年4月5日
写真撮影&妄想:東京神父
※全て東京神父の妄想です

撮撮影協力:桜湯、別府市、別府市温泉課、湯布珈琲、Bar Barolo、八幡朝見神社、別府ホルモンひめの、アンティークショップ道頓堀、金鱗湖



※温泉や個人の情報は全て撮影当時のものです。

ONSEN INFO

桜湯

別府ICを降りてすぐにある立ち寄り温泉施設。風情ある20種類の貸切家族風呂があり、大浴場やカフェ、くつろぎスペースも完備。中庭で産まれた野良ネコが2017年に館長となり、毎日館内をうろちょろしている。



住所:大分県別府市堀田4-2


営業時間:平日11:00~23:00(最終受付22:00)
土・日曜、祝日10:00~23:00(最終受付22:00)
(詳しくはオフィシャルをご覧下さい)


入浴料金:500円 土・日曜、祝日 700円
家族湯料金60分(平日90分)
2,000円~3,000円


泉質:炭酸水素塩泉


地図:湯巡りマップ


公式HP:別府八湯温泉道サイト桜湯



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